第46話 経営法務③ 遺産分割協議は必須
診断士試験では民法の家族法は出題範囲外とされている。しかしながら、中小企業の承継にも関連するので相続の一部が出題されるようになっている。企業経営理論の労働法規もところでもそうだったように、法律系の出題は難しくしようと思えばいくらでも難しく出来る。つまり知らない論点を出題すればよいのだから。
法務のスピテキは相続に割かれたページは1.5ページ分しかない。それでもそれなりに出題があるのは「この論点は捨てろ」ということなのだろう。
では早速相続の論点をみてみることにしよう。
相続には一般承継と特定承継とがある。一般承継は包括承継ともいう。
相続は“受け取る側”を相続人といい、“譲り渡す側”を被相続人という。相続は何もプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(積極財産)、つまり借金等も相続される。相続は被相続人の死亡によって始まるとされ、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で所定の手続きを経ることで相続を放棄する「相続放棄」、あるいは相続によって得た権利の範囲内でのみ義務を負担する「限定承認」を選択することが出来る。
被相続人の財産は遺産分割協議が済むまでは相続人たちの“共有分”であり、遺産分割できるのは積極財産である。
なお、消極財産(借金等)は遺産分割の対象とはならず、法定相続分に応じて相続される。つまり相続放棄をしないと借金を相続することになるということ。
次に、遺言(いごん)によって被相続人は相続財産を自由に処分することが出来る。むろん、遺言には書き方等ルールが存在している。
遺言があっても好き勝手に相続財産を分配できるわけではなく、相続人には最低限の相続財産が保障されている。これを“遺留分”とよんでいる。
遺言の効力によって相続財産は相続人に相続されるが、相続開始または自分の遺留分が侵害されていることを知った日から1年で時効(知らなくても10年で時効成立)となるからそれまでに“遺留分減殺請求”を行う必要がある。
ここから少しややこしい。遺留分の請求権者は法定相続順位の第2位まで。配偶者、父母(祖父母)、子供(孫)であり、被相続人の兄弟姉妹には遺留分減殺請求権はない。父母の遺留分減殺請求は3分の1と決まっている。
具体的な例で示そう。
被相続人:A その配偶者:B その子供:C その父母:D その兄弟姉妹:E とし、被相続人Aの遺言の内容は「愛人Xに全財産を譲る」という内容で、相続開始から1年以内に遺留分減殺請求をしたと仮定する。
①配偶者Bがいるケース
『Bの遺留分は2分の1』
つまり、愛人Xに2分の1、配偶者Bに2分の1
②配偶者B、その子供Cがいるケース
『B、C合計で遺留分は2分の1』
つまり、愛人Xに2分の1、B、C合計で2分の1(Bに4分の1、Cに4分の1)
③配偶者Bとその父母Dがいるケース
『B、D合計で遺留分は2分の1』
つまり、愛人Xに2分の1、B、D合計で2分の1(Bに6分の2、Dに6分の1)
④その子供Cしかいないケース
『Cの遺留分は2分の1』
①のケースと同じだ。
⑤父母しかいないケース
『Dの遺留分は3分の1』
愛人Xには3分の2。残りの3分の1は父母の遺留分となる。
⑥兄弟姉妹Eしかいないケース
『Eには遺留分がない』
つまり、愛人Xに全財産が相続される
遺留分についてスピテキではたった5行程度の記述でしかない。
最後に商行為について触れよう。
診断士試験においては、会社や企業が行う活動はすべて商取引という理解でいいだろう。ここでは、買主の検査・通知義務(商法第526条)について書き留めておくことにしよう。
商人間の売買では、買主が目的物を受け取ったときには、遅滞なくこれを検査し、目的物の瑕疵または数量不足があることを発見したときには直ちに、またはすぐに瑕疵が発見できないときには6ヶ月以内にこれを発見して、売主に通知しなければならない。
この検査・通知義務を怠ったときは、買主は目的物の瑕疵または数量不足を理由として売主の責任(瑕疵担保責任または債務不履行責任)を問えなくなる。また、この規定は不特定物にも適用される。
次回から会社法。
続く。