自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

第90話 経営法務25 実用新案

2.実用新案権
 実用新案権の目的は、「物品の形状、構造または組み合わせにかかる考案の保護および利用を図ることにより、その考案を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」である。ここでいう「考案」とは自然法則を利用した技術的思想の創作と定義している。特許の発明とは異なり、高度である必要はない。また考案は、物品の形状・構造・組み合わせに限られているので、方法、組成物、化学構造、液体・粒などの一定形状を有さないもの、動物・植物品種、プログラムなどは保護の対象とならない

 ●考案 → 物品の形状、構造、組み合わせ。プログラム、方法の考案は対象外

 登録要件として次のように定めている。
産業上の利用可能性があること。新規性があること。進歩性があること。反社会的な考案でないこと。特許と同じように先願の考案であることも要件であるが、考案も先願主義を採用している。同一の考案について異なった日に2以上の出願があった場合、最先の出願人のみが登録を受けることが出来る。また同一の日に2以上の出願があった場合は特許と異なり、誰も登録を受けることが出来ない。

 ●実用新案 → 同一日に2以上の出願は誰も登録出来ない

 次に実用新案権の取得手続であるが、特許と同様に、願書、明細書、登録請求の範囲、要約書、図面を特許庁長官に提出する。また特許と同様に新規性喪失の例外規定が設けられている。

 ●実用新案の出願書類 → 願書、明細書、登録請求の範囲、要約書、図面(必須)
 ※特許との違いは図面が必須であること

 方式審査は特許と同様。形式的な方式や基礎的な要件の審査が行われる。
 また、実用新案は特許と異なり、実体審査は行われない(無審査主義)。それゆえに特許のような出願公開や審査請求といった制度は存在せず、出願があったときは原則として登録される。その内容は実用新案公報に掲載される。

 実用新案権 → 無審査主義で出願イコール登録

 設定登録については、出願があったときは登録されるため、登録料は出願と同時に納付する。
 特許同様に、実用新案でも登録無効審判がある。この実用新案登録無効審判は特許と異なり、いつでも、誰でも請求可能。

 ●実用新案登録無効審判 → いつでも、だれでも請求可能

 特許同様に、実用新案権者も業として登録実用新案の実施をする権利を専有する。ただし、実用新案は物品の形状・構造・組み合わせに限られるので、プログラム等は保護されない。また、「方法」も保護対象ではないので「方法」に係る実施はない
 実用新案は無審査主義であり、出願はイコール登録を意味する。だから当該考案の有効性については審査されることがない。つまり権利者のみならず、第三者も当該考案の有効性が判断できないため、実用新案では「実用新案技術評価書」なるもので有効性を判断する。この実用新案技術評価書は、特許庁の審査官が評価をするが、出願人だけでなく、実用新案権者以外の者からも請求ができる。なお、この評価書は「1」~「6」の6段階で評価され、「6」が最も評価が高い。

 ●実用新案技術評価書 → 出願時以降であれば誰でも請求可

以下、実用新案技術評価書のポイントを列挙する。
実用新案権者・専用実施権者の対抗要件は、実用新案技術評価書
・実用新案技術評価書を提示した上で警告した後でなければ損害賠償など請求出来ない

次は実用新案権の制限について。基本は特許と同様。
実用新案権の存続期間は、出願の日から10年。特許は出願の日から20年(一定の条件で5年の延長可)。

 実用新案権 → 出願の日から10年

実は発明と考案は、高度かどうかの違いはあるものの、ともに自然法則を利用した技術的思想であるため、物(プログラム除く)に係る発明で特許要件を満たすものであれば、通常は実用新案登録要件も満たすことになる。したがって、特許・実用新案どちらにでも出願が可能である。実用新案権は財産権であるので、他人に贈与・売却などを自由に行うことが出来る。また相続などの承継の対象でもある。移転の効力は登録によって発生する。

 実用新案権の譲渡 → 登録により発生(一般承継は登録不要)

また、特許と同様に専用実施権と通常実施権がある。2012年の改正で実用新案権にも仮通常実施権が創設された。

 ●実用新案の専用実施権 → 設定登録必要
 ●実用新案の通常実施権 → 設定登録不要。複数に許諾可
 ●実用新案の仮通常実施権 → 設定登録不要

特許も実用新案も通常実施権、仮通常実施権には当然対抗制度が導入されています。

実用新案権には質権を設定できる。これは特許と同じだ。質権者は特約がなければ実施することは出来ない
共同考案、職務考案、先使用権、用尽論については特許と同様。ただし、中用権は、実用新案権は無審査主義であり特許庁の審査を経て登録されるわけではないので、実用新案権者には発生しない。一方、先願の考案と同一であるため、特許が無効にされた後願の原特許権者には中用権が認められる。

 ●中用権 → 実用新案権者には発生しない
 ●先願の考案、後願の発明 → 後願の特許権者に中用権が認められる

たとえばこんな感じでしょうか。
2010年10月、X社がβという考案を登録。
2011年11月、Y社がβという発明を特許出願。2012年10月に設定登録された。
このとき、考案イコール発明だとすれば、Y社の特許登録は過誤登録だから、Y社に中用権が発生。
これは先願の考案、後願の発明のパターンだ。
一方、先願の発明、後願の考案のパターンでは、
2011年11月、Y社が★★という発明を特許出願。2012年10月に設定登録を受けた。
2012年11月、Z社が★★という考案を出願した場合、実用新案は無審査だから過誤登録には当たらず、よって中用権は発生しないことになる。

最後に、実用新案登録に基づく特許出願について。
これは実用新案登録したにもかかわらず、同じ内容で特許出願を行うことである。実用新案登録出願から3年以内であれば、実用新案権として設定登録された後でも、実用新案登録に基づいて特許出願を行うことが可能
ちょっと整理しましょうか。
・出願人または実用新案権者から実用新案技術評価書の請求があった場合は特許出願は出来ない
・出願人または実用新案権者以外からの請求であった場合は、請求があった旨の通知から30日以内なら特許出願可能
・実用新案に基づく特許出願を行った場合は元の実用新案権を放棄しなければならない
・実用新案に基づく特許出願を行った場合は、再度実用新案に変更することは出来ない
・実用新案に基づく特許出願を行った場合は、実用新案技術評価書の請求は出来ない
・実用新案に基づく特許出願における特許権の存続期間は実用新案の出願の日から20年

 ●出願人or実用新案権者が実用新案技術評価書の請求 → 特許に鞍替え出来ない
 ●出願人または実用新案権者以外が請求 → 30日以内なら特許に鞍替えできる
 ●実用新案に基づく特許出願 → 元の実用新案権は放棄
                再度実用新案に変更するのは×
                実用新案技術評価書の請求は×
                存続期間は、実用新案の出願の日から20年

実用新案終わり。
次回は意匠権について。
続く。