自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

第96話 経営法務28 周知性とは都道府県レベル

商標権についてみています。今回は商標権の取得手続について概観しましょう。

まずは出願。出願書類は特許庁長官に提出する。必要な書類は、願書。図面は任意。願書の中には、指定商品・指定役務の区分などを記載する必要がある。

 商標権の取得 → 願書のみでOK
 ●願書 → 指定商品・指定役務の区分を記載

 商標法では、商標に係る指定商品・指定役務の区分を必ず指定するように定めている。またその使用する1または2以上の商品・役務を指定して、商標ごとに出願しなければならない。
 商標法では、そもそも新規性を要件としていないので新規性喪失の例外規定はない。ただし、先願主義との兼ね合いで、特許庁長官が定める基準に適合する博覧会等へ出品した商品・出展した役務に係る商標は、出品または出展の日から6月以内に、特例規定の適用を受ける旨の書面と出願と同時に提出し、かつ出願時から30日以内に出品・出展の事実を証明する書面を提出すれば、その出品・出展のときに出願したとみなされることになっている。

 ●商標の出願時の特例規定 → 出品・出展の日から6月以内に出願と同時に提出
               30日以内に事実証明の書類を提出

なお、商標の方式審査は他の知的財産権と同様。提出された書類の形式的な審査を受けることになっている。

 商標は、特許・意匠と同様に実体審査を受ける必要がある。商標法では審査請求制度はないため、原則としてすべての出願が審査される。

 ●商標 → 出願されたものすべて審査
 ※特許 → 審査請求後、審査
 ※実用新案 → 無審査、出願イコール登録
 ※意匠 → 出願されたものすべて審査

 商標法では、特許法同様に出願公開制度がある。これは商標の使用は特許の実施よりも容易であるので、同一・類似の商標を使用する第三者が現れることを防ぐために期限が設けられていない。

 ●商標法 → 出願公開制度アリ。出願があったときに商標公報に公開される
 ●特許法 → 出願公開制度アリ。1年6月経過すると出願公開される

 商標登録は商標法によると、出願日から1年6月以内に拒絶する理由が見つからない限り商標登録される。これは商標法独自の規定

 商標権 → 1年6月を経過した場合、自動的に登録される

商標権にも登録無効審判制度がある。この無効審判を請求できるのは利害関係人。

 ●商標の登録無効審判 → 利害関係人のみ、いつでも請求可

また、特許法同様に、登録異議申立制度がある。スピテキには“商標法独自”とか書いてあったが、特許法の法改正により、特許にも異議申立制度が創設された。

 ●商標の異議申立制度 → 公報発行から2月以内なら誰でも請求可
 ※特許の異議申立制度 → 公報発行から6月以内なら誰でも請求可

続いて、商標権の効力についてみていくことにする。
他の産業財産権同様に、商標権は排他的独占的な効力を持つこととされている。商標法によれば、商標権の「使用」の範囲は8類型だとされる。
 ①商品または商品の包装に標章をつける行為
 ②商品または商品の包装に付けた標章を流通する行為
 ③役務の提供にあたり顧客が利用する物に標章を付ける行為
 ④標章を付けた物を利用して役務を提供する行為
 ⑤役務を提供する道具に表彰を付けて展示する行為
 ⑥役務の提供にあたり顧客の物に表彰をつける行為
 ⑦標章を表示してネットワークを通じた役務を提供する行為
 ⑧広告や取引書類等に標章を付けたり表示して流通する行為
また、商標法では、「使用の範囲」と併せて禁止権を定めている。この禁止権とは、登録商標に係る指定商品・指定役務において類似する範囲内で、他者の使用を禁止する権利のこと。意匠同様に、類似するもの標章は禁止権があり、他者が使用することは出来ないとしている。

 また、商標法では独自の規定を設けていて、商標が識別力を欠いていたり不登録事由に該当していたりすると商標登録出来ないのだが、商標は創作性を必要としないので他の産業財産権に比べて出願が容易であり、そのため過誤登録されることがある。そこで、本来は不登録事由に該当するような商標に対しては、商標権の効力は及ばないとしている。
 ①自己の肖像、指名・名称、著名な略称等を普通に用いられる方法で表示する商標
 ②指定商品・指定役務または類似商品・類似役務の普通名称、産地、販売地、品質等を普通に用いられる方法で表示する商標
 ③指定商品・指定役務または類似商品・類似役務について慣用されている商標
 ④商品または商品の包装の形状であって、その商品または商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標

少し分かりにくいので具体的な例を用いてみます。
①の例。例えば、登録商標「鈴木」があったとする。「鈴木」という名前の人が普通に「鈴木」という屋号で商売をしているとき、登録商標「鈴木」の効力は及ばないとされる。もちろん、商標権登録後に、不正競争目的で「鈴木」を使用してはいけない。
②の例では、「冬用」という登録商標があったとする。スポーツ用品店で「冬用」という商標を付して販売している場合、登録商標「冬用」の効力は及ばない。
③の例では、卸売業において「問屋」という用語が慣用的に用いられている場合、普通に「問屋」という商標で商売をする者に対して登録商標「問屋」の効力は及ばない。
④では、JISやISOが定めた形状や寸法により複製せざるを得ない形状を用いた立体的形状について立体商標の登録を受けていたとしても、当該形状については効力は及ばない。

 次の話題。
 商標権の存続期間は、設定登録の日から10年。ただし、更新登録を受ければ何回でも更新することができる。つまり、商標権は更新することで半永久的に使用できるということ。

 商標権 → 設定登録から10年。ただし何回でも更新可
  ※特許権 → 出願の日から20年(延長5年あり)
  ※実用新案権 → 出願の日から10年間
  ※意匠権 → 設定登録から20年

 商標権も財産権であるので移転することが出来る。譲渡、売却は登録が必要で、相続などの一般承継については登録は不要。
なお、商標権に係る指定商品・役務が2以上のときは、指定商品・役務ごとに分割して移転することが出来る。

 商標権の移転 → 2以上の指定商品・役務がある場合、分割して移転可

商標権にも専用実施権や通常実施権が規定されているが、特許、実用新案、意匠と異なるところは通常使用権には当然対抗制度が導入されていない。つまり、商標権の通常実施権を付与する場合、登録が必要だということだ。

 ●商標の通常実施権 → 登録必要

なお、質権の設定については、他の産業財産権と同じである。
また、用尽論については他の産業財産権と同じだが、先使用権と中用権については規定がある。
先使用権・中用権が認められるためには、
 ①当該商標が需要者に広く認識されている必要がある(周知性がある)
ことが必要。この周知性とは都道府県レベルでの認知をいう(全国レベルではない)。また、
 ②自己の登録商標との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できる
というところが商標権独特な部分である。

 ●商標の先使用権・中用権 → 認められるには周知性必要

例えば、こんな感じ。
A市でうどん屋を営む甲商店がある。甲商店は独自に開発したうどんの製法で人気を博してきた商店だ。その製法で作ったうどんは「○○うどん」という名称だが、メディアにも取り上げられ、2010年10月頃から全国に知られる存在になっていた。相変わらず人気だ。
A市の隣のB市にある乙商店は、甲商店とは異なる製法で作ったうどんを販売するようになり、「○○うどん」という名称で2012年12月に商標登録した。
2014年11月、A市の甲商店は、B市の乙商店から商標権の侵害に当たるとした警告書を受け取った。
困った甲商店の店主は、中小企業診断士のあなたに相談を持ちかけた。

みたいなストーリーがあったとしよう。
論点は二つある。
まずは、甲商店の「○○うどん」に先使用権が認められるかどうか?
次は、甲商店の「○○うどん」は使い続けることが出来るのかどうか?

結論を言うと、この場合は「先使用権が認められ、使い続けることが出来る」だ。

甲の「○○うどん」は2010年頃から周知性を得ている。乙の「○○うどん」は2012年に商標権を取得している。つまり、商標権取得前にすでに周知であったから先使用権が認められる。ゆえに甲は「○○うどん」という名称を使用し続けることが出来るというわけだ。

商標法には、そもそも「創作」を保護対象としていないため、「職務商標」といった制度は存在しない。仮に従業員が業務の一環で登録商標に係る標章を「創作」した場合は、それは商標法ではなく、著作権法で保護されることになる

長くなったので続く。