自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

第100話 経営法務30 とうとう100回ですな

もうしばらく産業財産権は続きます。なんやかんや法務はかなり細かいところまで書いているような気がします。だから100回なんだよね。でも、こうやってPCに向かって書きしるすことで、学習してきた内容がよみがえってきますし、忘れていた論点なども思い出すことが出来ます。「あれ、ここはどんな論点だっけな?」とか思い出そうとすることで他の書籍を調べたり、インターネットで調べたり・・・。忘れないようにするためには output が必要だっていうことですかね。

今回は産業財産権の権利侵害に対する手段について概観しようと思います。

正当な権原(法律上の原因のこと)のない者が、権利者の排他的独占的権利を実施したり使用したりすることは産業財産権の侵害にあたる。あまり本試験で単独で出題されることはないんだろうけれど、各産業財産権ごとに侵害についてみていくことにする。


 まずは特許権。正当な権原なく特許発明を業として実施することを直接侵害という。「業として」は営利目的で行うことを指すので私的利用は該当しない。また、特許権直接侵害を幇助するような行為を間接侵害という。これは民法の共同不法行為に基づくものである。さらに擬制侵害といって、直接侵害行為に必要な「専用品(特許発明に係る製品を製造する装置など)」の譲渡等の行為や「特許発明の本質的構成要素をなす物」を提供する行為をいう。これも特許権の侵害行為と看做される。
 実用新案権の侵害は基本的には特許と同様。
 意匠権の侵害について、意匠権の効力は、類似意匠にまで及ぶので、正当な権原のない第三者が業として実施する場合となる。
 商標権の侵害は、指定商品・指定役務について、登録商標と同一商標もしくは類似する商標を使用すること、または指定商品・指定役務に類似する商品・役務について登録商標もしくはこれに類似する商標などを使用することをいう。

 また当然に、譲渡等を目的とした所持について、「業として」の譲渡・貸し渡し・輸出等のために侵害物品を所持する行為は侵害行為とみなしている。

 次にこういった侵害行為に対する対応策についてみてみる。
まずは自己の特許権を侵害された場合。特許権侵害に対する対応策は、特許権者および専用実施権者にのみ認められている。

 ●侵害への対応 → 特許権者および専用実施権者のみ

以下、対応策を列挙してみる。
警告
 内容証明郵便などの書面で警告を行うのが一般的である。相手方が善意であればライセンス契約に発展できる可能性もあるが、補償金請求権の行使には警告が原則として必要
差止請求権
 相手方が侵害行為を停止しない場合には、仮処分などの法的手段をとることができる。侵害する者のみならず、侵害するおそれのある者に対しても差止請求が認められる

 ●差止請求 → 侵害する者、侵害するおそれがある者に対して請求可能

損害賠償請求
 特許法では「過失推定」を認めている。本来、民法不法行為では、権利者が侵害者の故意・過失を立証する必要があるのだが、特許法では、権利者の故意・過失の立証責任を「過失推定」とし、特許権侵害の救済を容易にしている
不当利得返還請求
 不当利得返還請求は、侵害者の故意・過失を要件としていない(無過失責任)。時効期間も10年と、民法不法行為の3年よりも長い。
信用回復措置請求
 新聞に謝罪広告の掲載を求めるなどが一般的。
刑事告訴
 相手方が故意による特許権侵害を行っている場合には、刑事処分を求めることも出来る。特許権侵害は非親告罪なので、被害者(権利者)側が告訴しなくてもよいのだが、刑事処分を求めるために告訴することも出来る。

 次に他者から警告を受けた場合の対応について。
①正確な調査と回答
 他者から警告を受けた場合または侵害訴訟や仮処分を提起された場合、
 1)相手方の特許発明の技術的範囲を正確に調査
 2)専門家の意見を聞くもよし
 3)特許庁に判定を求めるもよし
 等して、その結果侵害にあたらないと判断した場合には、その旨を内容証明郵便等の書面で回答する。
②対抗措置の検討
 他者からの警告が強硬で執拗な場合、法的手段を検討する。
 1)裁判所に対して相手方の差止請求権不存在確認を求める訴えを起こす
 2)特許庁に対して特許無効審判の申立手続を開始する
 3)日本知的財産仲裁センターによるADR(裁判外紛争解決)を利用
③先使用権の主張の検討
④相手方の特許権の用尽の主張の検討

侵害行為への対応や自ら警告を受けた場合の対応は何も特許権だけではない。そこで、特許権と異なる規定を以下に列挙する。
実用新案権
 実用新案技術評価制度を採用しているため、実用新案技術評価を特許庁長官に請求し、実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ実用新案権を行使出来ない。これを怠った場合は逆に損害賠償請求される可能性もある。また実用新案権には「過失の推定規定」はない。ゆえに、権利者自ら相手方の故意・過失を立証しなければならない
意匠権
 秘密意匠の場合、そもそも秘密にされているのだから、相手方は当該意匠の存在を知らないし、当該意匠権の効力が分からない。そのため、権利者は特許庁長官の証明を受けた書面を相手方に提示し警告した後でなければ差止請求を行うことが出来ない。また秘密意匠には過失の推定規定はない。権利者自ら相手方の故意・過失を立証しなければならない
商標権
 権利行使できるのは商標権者または専用使用権者。あとは特許と大きな違いはない。

 実用新案権 → 技術評価書提示した上で警告。過失推定規定ナシ
 ●意匠権 → 秘密意匠の証明を提示した上で警告。過失推定規定ナシ

 産業財産権が相互に抵触する場合がある。物にかかる特許権が、その物と同一・類似の形態を有する他人の意匠権または商標権と抵触する場合が考えられる。この場合は先願の権利が優先される。税関に対する輸出入差止請求権もある。

 ここまで特許・実用新案・意匠・商標の産業財産権を概観した。とにもかくにも細かいし、似たような感じだし、紛らわしいことが多い。
次回は著作権についてみていくことにする。