第112話 中小企業政策① 白書と政策
診断士試験には、「中小企業経営・中小企業政策」という科目があります。中小企業経営は、中小企業の動向や特徴、中小企業が経営資源を調達する際の問題点、開廃業の動向など、中小企業白書を中心とした重要論点についての出題があります。
中小企業政策は、中小企業基本法や、その他具体的な中小企業施策に基づいた出題があります。その他中小企業向けの税制や優遇制度なども出題され、日本という国は中小企業や小規模企業に対して相当な優遇をしていることが分かり知れます。
本科目は基本的には暗記中心の学習になりますが、学習した感想としては、中小企業政策よりも白書からの出題のほうがイヤだったということです。結果として科目合格は果たせましたが、実感としてはもう少し取れたかなと思いました。2日目の最後の科目で集中力や気力がなくなりかけ、体力的にもキツかったことを覚えていますが、最後の力を振り絞って解きまくったのが実際のところです。
中小企業白書は、2016年度の受験であれば、2015年度版の白書からの出題です。今現在、2015年度版白書は発表されていますので白書を用いた学習は可能ですが、これがまたやたらとブ厚いのです。
一方の政策のほうは法改正等あれば別ですが、基本的には内容が変わらない部分が多いので旧版での学習は有効だと考えます。科目合格しているので科目免除してもよいのだけれど、次回も全科目の受験を考えているので、ここは振り返りと称したレビューをやろうと思います。
中小企業経営・中小企業政策は90分の試験です。問題は素直な出題で、企業経営理論のような読解力を試すような出題はなく、基本的には「覚えていればOK」な出題が多いのが特徴です。
中小企業政策は主に、
1)中小企業基本法などの法令に係る出題
2)中小企業の経営革新に係る出題
3)中小企業の税制に係る出題
がメインです。これらを中心にスピテキを紐解いていきます。
それでは始めましょう。
1.中小企業基本法
同法の目的は、「中小企業に関する施策を総合的に推進し、国民経済の健全な発展および国民生活の向上を図ること」である。また、中小企業を「多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することによりわが国の経済の基盤を形成しているもの」と位置づけている。
中小企業に期待される役割を4つ挙げている。
●中小企業に期待される4つの役割
①新たな産業の創出
②就業の機会の増大
③市場における競争の促進
④地域における経済の活性化
●4つの役割 → 三共周知(産競就地)
このため、国は、「多様で活力ある中小企業の成長発展」を実現するために、独立した中小企業者の自主的な努力を前提としつつ、①経営の革新および創業の促進、②経営基盤の強化、③経済的社会的環境の変化への適応の円滑化を図るため、中小企業に関する施策を総合的に策定し、実施する責務を有するとしている。
●中小企業基本法の基本理念 → 独立した中小企業の多様で活力ある成長発展
(独中多活成)
1)基本方針
中小企業基本法では、以下のとおり、基本方針を定めている。
●基本方針
①経営の革新および創業の促進(ならびに創造的な事業活動の促進)
②中小企業の経営基盤の強化
③経済的社会的環境の変化への適応の円滑化
④資金供給の円滑化および自己資本の充実
これらの基本方針に基づき、各種施策が用意されている。
2)中小企業者の範囲
中小企業基本法第2条において、業種ごとに資本金、従業員数が定量的に決められている。資本金か従業員数のどちらかの条件が満たされていれば、中小企業者と認定される。
●中小企業者の範囲
製造業その他 → 3億円以下・300人以下
卸売業 → 1億円以下・100人以下
小売業飲食業 → 5,000万円以下・50人以下
サービス業 → 5,000万円以下・100人以下
どっかの受け売りだが、中小企業者の範囲は次のような覚え方があるようだ。これには大変お世話になった。
●中小企業者の範囲 → 「せー・おろ・こー・さ 33 11 55 51」
そのまんま、なんだけれどねぇ(笑)
3)小規模企業者の定義
小規模事業者とは、常時使用する従業員の数が20人以下(卸売業、小売業、飲食店、サービス業は5人以下)の事業をいう。小規模企業者は、中小企業者とは異なり、資本金は全く関係ない。
●小規模企業者 → 従業員20人以下(卸・小売・飲食・サービスは5人以下)
4)その他
中小企業基本法では、その第2条において、次の3つの用語を定義している。
・経営の革新
・創造的な事業活動
・経営資源
ここで改めて用語を定義しているということがポイントであって、平生の理解のまま解答すると間違える可能性があるので注意したいところだ。ちなみに、経営資源とは、平生の理解では、「人・モノ・カネ・情報」みたいな感覚であるが、中小企業基本法では、こう定義されている。
●経営資源
→ 設備、技術、個人の有する知識および技能その他の事業活動に活用される資源
ね、ぜんぜん違うでしょ?
2.小規模企業活性化法(通称)
2013年施行。正式には、「小規模企業の事業活動の活性化のための中小企業基本法等の一部を改正する等の法律」というが、これが意味不明な正式名称だ。
1)基本理念
かいつまんで言うと、
①地域における経済の安定
②地域住民の生活の向上および交流の促進
③創造的な事業活動
④将来におけるわが国の経済および社会の発展に寄与
としていて、
⑤独立した小規模企業者の自主的な努力
を助長するためにいろんな環境を整備するので、だから中小企業者だけでなく、小規模企業者も頑張れというのが基本理念。
2)基本的施策
小規模企業者に対する施策は、以下の3つをポイントにしている
①中小企業の経営の革新および創業の促進
●創業の促進 → 女性や青年による創業の促進
②中小企業の経営基盤の強化
●経営基盤の強化 → 海外における事業展開の促進
→ 情報通信技術の活用の推進
③経済的社会的環境の変化への適応の円滑化
●事業承継 → 制度の整備、共済制度の整備
3.小規模企業振興基本法(小規模基本法)
小規模企業活性化法をさらに一歩進める観点から、2014年に、小規模企業振興基本法が施行されている。
同法では、小規模企業者を従業員5人以下の企業とし、成長発展だけでなく、事業の持続的発展を基本原則としている。その原則をふまえ、小規模企業施策について、5年間の基本計画を内閣が定め、政策の継続性、一貫性を担保する仕組みをつくる。
●小規模企業振興基本法 → 内閣が5年間の基本計画
●同法の小規模企業者の定義 → 概ね従業員5人以下
1)基本方針
①国内外の多様な需要に対応
②人材の育成および確保
③地域住民の生活の向上および交流の促進
④支援体制の整備
2)基本施策
①信頼関係をいかし、多様な需要を掘り起こす
②多様な「個」の能力をいかす
③連携を強化し、地域を活性化する
④総力をあげた支援体制を構築
4.中小企業憲章
2010年に閣議決定。中小企業は、意思決定の素早さや行動力、個性豊かな得意分野などの多種多様な可能性を持つ。経営者は、企業家精神に溢れ、自らの才覚で事業を営みながら、家族のみならず従業員を守る役割を果たすとしている。また、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たすとし、中小企業は、国家の財産ともいうべき存在だとしている。
●中小企業憲章 → 中小企業は、“国家の財産”
1)基本原則
①経済活力の源泉である中小企業が、その力を思う存分に発揮できるように支援する
②起業を増やす
③創意工夫で、新しい市場を切り拓く中小企業の朝鮮を促す
④公正な市場環境を整える
⑤セーフティネットを整備し、安心を確保する
これら基本原則に基づいた行動指針が定められ、具体的な施策に落とし込まれる。
2)行動指針
①中小企業の立場から経営支援を充実・徹底
②人材の育成・確保を支援
③起業・新事業展開しやすい環境つくり
④海外展開の支援
⑤公正な市場環境の整備
⑥中小向けの金融の円滑化
⑦地域および社会に貢献できる体制の整備
⑧中小への影響を考慮し政策を進め、政策評価に中小の声を活かす
このように各法律をもとに、いろんな施策が実行されるわけで、根拠法と施策を紐付けて覚えていくことが大切だろう。
次回は、おのおのの施策について細かく見ていく。
続く。