自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

財務会計【平成19年度 第17問】

【平成19年度 第17問】
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

 

1,000万円の資金を必要とするS株式会社を設立するにあたり、発起人は資金調達について検討に入った。なお、発起人の間では次の点について意見が一致している。

(合意事項)
1.会社設立後、会社は毎年100万円の営業キャッシュ・フローを確実にもたらす。
2.毎年の減価償却費は40万円で、これと同金額が経営能力維持のために毎年投資される。減価償却費以外の費用、収益はすべてキャッシュ・フローである。
3.株式発行する場合の発行価格は1株10万円とする。
4.市場利子率は4%で、この率で自由に借入・貸付できる。
5.資本構成については、必要資金1,000万円を全額株式で調達する案(以下「株式調達案」という)と、500万円を株式で調達し残りを借入とする案(以下「借入調達案」という)の2つについて検討する。
6.利益はすべて現金配当する。

 

発起人Pは、「税金を考えないものとすると、貸借対照表に基づく自己資本利益率は負債の利用度が高いほど高くなるので、自己資本利益率重視の経営を考えるなら、借入調達案の方がよい」と主張した。発起人Qは、「税金を考えないものとしても、われわれも投資家であるので、簿価ではなく時価で自己資本利益率を考えるべきではないか。利益、したがって配当総額は、株式調達案の場合は毎年(  )万円、借入調達案の場合は毎年(  )万円である。その結果、自己資本の価値が、株式調達案では( A )万円、借入調達案では( B )万円となる。そして、時価に基づく自己資本利益率は、株式調達案で( C )%、借入調達案で( D )%となる」と述べた。発起人Rは、「前記合意事項に加えて、法人税率を40%と仮定するとき、企業価値は、株式調達案では( E )万円、借入調達案では( F )万円となる」と述べた。

 

(設問1)
文中の下線部について、簿価による自己資本利益率の説明として最も適切なものはどれか。

ア 自己資本利益率は、株式調達案では6%、借入調達案では4%である。
イ 自己資本利益率は、株式調達案では6%、借入調達案では8%である。
ウ 自己資本利益率は、株式調達案では6%、借入調達案では12%である。
エ 自己資本利益率は、株式調達案では10%、借入調達案では8%である。

(設問2)
文中の空欄AおよびBに入る最も適切な数値の組み合わせはどれか。

ア A:1,000    B:500
イ A:1,000    B:1,000
ウ A:1,500    B:500
エ A:1,500    B:1,000

(設問3)
文中の空欄CおよびDについて、時価による自己資本利益率の説明として最も適切なものはどれか。

ア 時価による自己資本利益率は、株式調達案と借入調達案とでは同じである。
イ 時価による自己資本利益率は、株式調達案の方が借入調達案より大きい。
ウ 時価による自己資本利益率は、株式調達案の方が借入調達案より小さい。
エ 時価による自己資本利益率は、簿価による自己資本利益率と同じである。

(設問4)
文中の空欄E及びFに入る最も適切な数値の組み合わせはどれか。

ア A:600   B:300
イ A:600   B:600
ウ A:900   B:600
エ A:900   B:1,100

 

 

 

 

 

この平成19年度の第17問は、財務レバレッジ配当割引モデル、MM理論、企業価値、負債価値の論点を網羅する良問だと思います。こうやって枝問になっていると1個ミスると全滅とかいう危険性もありますけどね。
でも、この発起人たちが現実には税金はあるにも関わらず「税金を考えないものとすると」とか言っているのが笑える。問題を作成した委員たちもさぞかし笑ったことだろうな(注:著者の妄想です)。
それにしても、第17問だけで配点が16点だもんね。すごいや。

さて、設問1からみていきましょう。
この問題は、簿価による自己資本利益率について問うています。
自己資本利益率ROE)を出し、それぞれを比較するというのがストーリーになりそうですね。
両案の会計上の利益を出す必要があります。
始めに株式調達案から。
営業CF=100万円、減価償却費=40万円、税金は考えないんだから、利益=100-40=60ですね。
一方の借入調達案は、
営業CF=100万円、減価償却費=40万円、負債額=500万円、負債(市場)利子率=4%が与件ですね。
だから、500×4%=20万円が負債利子額です。よって、利益=100-40-20=40です。
したがって、株式調達案では全額株式ですから、ROE=60÷1,000=6%で、
借入調達案では自己資本は500万円ですから、ROE=40÷500=8%です。
よって、イ が正解。

これがMMの論点だと見抜ければ、イorウの二択に絞れますけどね。

続いて設問2です。簿価ではなく、時価で自己資本利益率を求めろとあります。
時価で出す場合は、簿価による会計上の利益を市場利子率で割り引いて自己資本の価値を求めるのが定石です。これは配当割引モデルなんだろうけれど、設問1をとらないと当然に設問2だって間違えます。

与件より市場利子率=4%です。
株式調達案の利益は60、借入調達案のそれは40でしたね。だからこれらを市場利子率で割り引けばOKです。
株式調達案は、60÷4%=1,500万円。借入調達案は、40÷4%=1,000万円。
よって、エ が正解。

さらに設問3です。時価に基づくROEを算出し、両案を比較せよ、というものです。
設問2より、株式調達案の自己資本の時価は1,500万円で、借入調達案のそれは1,000万円です。
また、設問1より、両案の会計上の利益も算出済みです。これらを用いれば、時価によるROEが算出できます。
株式調達案では、ROE=会計上の利益60÷時価による自己資本1,500=4%。
借入調達案では、ROE=会計上の利益40÷時価による自己資本1,000=4%。
いずれもROEは同じです。
これは税金がないと仮定したので、資本構成は企業価値に影響を与えないというMMの論点です。
したがって、ア が正解となります。

最後の設問4です。今度は税金を考慮した場合の企業価値を算出します。法人税率は40%です。なお、MM理論では負債の利用度が高まるほど企業価値は高くなりますから、正解は、エ であることが分かります。
地道に計算をすると、次のとおりになります。
株式調達案では、税金を考慮しない場合の利益は60でしたが、ここでは税金を考慮しますので、60×0.4=24万円が税金。よって、会計上の利益は36万円となり、これを市場利子率で割り引くと36÷4%=900万円。したがって、自己資本の価値は900万円。
一方の借入調達案では同様に、40×0.4=16万円が税金。会計上の利益は24万円。自己資本の価値は24÷4%=600万円となる。ここで注意したいのは、会計上の利益を市場利子率で割り引いて算出したのはあくまでも自己資本の価値であり、負債を利用している場合は、自己資本の価値に負債を足したものが企業価値になる点。
よって、借入調達案の企業価値は600万円+500万円=1,100万円。