財務会計【平成18年度 第12問】
【平成18年度 第12問】
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
デリバティブには、先物(フューチャー)やオプションなどがある。先物は、所定の原資産を将来の一定時点(満期日)に所定の価格で売買する契約である。なお、①先物と類似しているものに先渡し(フォワード)がある。
また、オプションとは、所定の原資産を将来の一定時点にあるいは一定時点までに、所定の価格で売買する権利を意味する。オプションには( A )・オプションと( B )・オプションがある。前者は原資産を売却する権利であり、後者は原資産を購入する権利である。また、将来の一定時点にだけ権利行使ができるオプションは( C )型と呼ばれ、将来の一定時点までならばいつでも権利行使できるオプションは( D )型と呼ばれている。
オプションをヘッジ目的で利用するケースを、次のような株式オプション(株式を原資産とするオプション)で考えてみよう。
S社は、Z社株式を1株1,000円で1,000株購入した。Z社株式の株価が将来値下がりする可能性に不安を感じたS社は、その損失を限定するために、Z社株式1,000株を原資産とするプット・オプション(1株の権利行使価格900円で、3カ月後を限月とする)を同時に購入した。このプット・オプションは満期日にだけ権利行使できるタイプであり、オプション価格はZ社株式1株につき 60円であった。次表は、満期日におけるZ社の株価別にS社の損益を表している。なお、利息や取引手数料等は無視し、オプション損益にはオプション価格を含め、△は損失を示している。
<所有現物株とプット・オプションの損益>
満期日の株価 所有株式評価損益 オプション損益 損益合計
600円 △( F )万円 24万円 △( )万円
( E )円 0万円 △6万円 △6万円
1,400円 ( )万円 △( G )万円 34万円
このように、現物株の所有とそれに対応するプット・オプションの所有からなるポートフォリオの損失は、最悪の場合でも△( H )万円に限定される。他方、 このプット・オプションの売り手にとっては、オプションの利益は最大で( I )万円に限定される。
(設問1)
文中の下線部①について、先物と先渡しに関する説明として、最も不適切なものはどれか。
ア 先物では、先物価格の変動に基づき日々値洗いが行われるが、
先渡しでは受渡日に清算されるのが一般的である。
イ 先物と先渡しは、所定の原資産を将来の一定時点に所定の価格で
売買する契約という意味では同じである。
ウ 先物は相対取引あるいは店頭取引として行われるが、
先渡しは取引所で取引される。
エ 先物も先渡しも投機目的で利用することが出来る。
(設問2)
文中の空欄A~Dに入る語句の最も適切な組み合わせはどれか。
ア A: コール B: プット C: アメリカ D: ヨーロッパ
イ A: コール B: プット C: ヨーロッパ D: アメリカ
ウ A: プット B: コール C: アメリカ D: ヨーロッパ
エ A: プット B: コール C: ヨーロッパ D: アメリカ
(設問3)
本文中に示した表の空欄E~Gに入る最も適切な数値の組み合わせはどれか。
ア E: 900 F: 30 G: 8
イ E: 900 F: 40 G: 6
ウ E: 1,000 F: 30 G: 8
エ E: 1,000 F: 40 G: 6
(設問4)
本文中の空欄H、I に入る最も適切な数値の組み合わせはどれか。
ア H: 10 I : 6 イ H: 10 I : 10
ウ H: 16 I : 6 エ H: 16 I : 10
強烈な枝問だ。これで合計16点だもんな。デリバティブが苦手な人は大変だったろうな。
4つも設問があるが、設問1は知識系だよな。設問2は確実にとらないと。設問3をミスると同時に設問4もヤバいことになりそうだな。4問中3つはとりたいね。
まずは設問1からだ。
先物って聞いたことあるけど、先渡しと先物の違いを明確にしていればOKかな。
先物は取引所で取引されるのに対して、先渡しは取引所での取引ではなく、個別の契約だった。
また、先物は差金決済が基本だが、先渡しは現物の受け渡しがある点が異なるっつうこと。
ア 先物は日々価格が変動する。だから日々値洗いを行う。
一方の先渡しは受渡日に決済される。だから、アの記述は正しい。
イ 将来の一定時点に所定の価格で売買するところは両者とも同じだ。だからイも正しい記述だ。
ウ 先渡しは取引所での取引はないので、ウは誤った記述。
エ 先物も先渡しも投機目的で利用できる。リスクヘッジも出来るね。だから正しい記述。
したがって、正解は、ウ である。
次は設問2だ。これは確実にゲットせねば。
売却する権利はプット。購入はコールだ。だからこの時点でウorエに絞られる。
いつでも権利行使できるのは、アメリカ型。いつでもってことは自由だからアメリカっぽい。
ゆえに、正解は、エ である。
時間がかかりそうな設問3だ。
与件を確認しよう。
「Z社株式1,000株を原資産とするプット・オプション」
「1株の権利行使価格900円」
「満期日だけ権利行使できるヨーロッパ型」
→ つまり、原資産が900円を下回った場合は権利を行使
「オプション価格はZ社株式1株につき60円」
→ 原資産が900円を下回った場合権利行使するが、その際1株あたり60円
必要だから、実質の受け取りは840円
意外とこれは一緒に考えなくても良いかもしれないなぁ。
なお、オプション価格とは、オプションそのものの購入代金だ。
それでは、検討に入る。
満期日の株価が600円だった場合からだ。
もともとは1,000円だったからこの時点で400円のマイナスが生じている。だから、Z社株式は1,000株だから40万円のマイナスだ。
権利行使価格900円のプット・オプションを行使すると、900円となる。
また、1,000株分のオプション価格が上乗せになるから、60円×1,000株=6万円のマイナスが上乗せになる。
したがって、満期日の株価が600円のとき、権利行使すると、
所有株式評価損益→もともとの株価と満期時の株価を比べた場合は40万円のマイナスだから△40万円。
オプション損益→満期時価格は600円だったのに900円で権利行使できたから、(900-600)×1,000株より権利行使したことで30万円トクしたことになる。オプション価格として△6万円だから、全体でのオプション損益は24万円。
よって、満期時の株価=600 になったとき、権利行使して900円で売却した場合、もともととの差は△40万円。権利行使した結果のオプション損益は24万円のプラス。よって、損益合計は△16万円となる。
→ 空欄F には 「40」
この時点で、正解は、イorエに絞られている。
次に空欄E を攻めよう。
空欄E は所有株式評価損益が0万円だから、Eには1,000 が当てはまる。
満期時株価=1,000 のときも権利行使しているんだねぇ。
あれま、正解は、エ だ。
ちなみに、満期時株価=1,400 だったときは権利放棄して、現物株を売却するのが定石だ。
所有株式評価損益は、プラスの40万円。オプションの購入代金で△6万円だから、全体の損益はプラスの34万円。
つまり、原資産価格>権利行使価格 のときはオプション代のみ支払って権利放棄するからオプション代のみの支払いが発生するわけね。
最後に設問4だ。
「現物株の所有とそれに対応するプット・オプションの所有からなるポートフォリオの損失」とある。つまり権利を持っている側について述べていることになる。
設問3では、Z社株式1,000株を1株あたり1,000円で購入し、権利行使価格900円のプット・オプション(当該権利の購入代金は1株あたり60円)も購入している。
満期時の株価が500円だろうと600円だろうと、900円のプット・オプションを権利行使すると、原資産と比べて△10万円であり、プラスしてオプション代金△6万円だから最大で合計△16万円となる。んー、ここまでは順調だな。
次に、
「他方、このプット・オプションの売り手にとっては」の部分。
“買い手”にとっては、満期時価格が原資産価格を上回った場合、権利放棄はするも現物を売却することでトクはしてもオプション代金だけは支払う必要がある。だから常に△6万円。実はこれが“売り手”の利益になっている。売り買いが逆になる発想だね。満期時価格が現資産価格を下回った場合は“買い手”がトクするのだから、“売り手”は損をすることになる。
したがって、正解は、ウ である。