自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

経済学・経済政策【平成22年度 第18問】

【平成22年度 第18問】
 ある市場で2社が競争している状況を考える。生産量で競争する場合と、価格で競争する場合に、それぞれの企業の反応関数ならびに反応関数の交点が下図のように表されている。先導者と追随者が区別された場合に、以下のa~dの記述のうち、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

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〔解答群〕
a 生産量で競争する場合、先導者となった企業の利益は、反応関数の交点にお
 ける利益よりも高い。
b 生産量で競争する場合、追随者となった企業の利益は、反応関数の交点にお
 ける利益よりも高い。
c 価格で競争する場合、先導者となった企業の利益は、反応関数の交点におけ
 る利益よりも高い。
d 価格で競争する場合、追随者となった企業の利益は、反応関数の交点におけ
 る利益よりも高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実はこの問題は没問になっています。正しい記述は3つあるんですね(笑)
複占市場における均衡が論点になっていますが、少々ややこしいので少し確認しておきましょう。
この論点で押さえるべきは3つです。
①クールノー均衡
②シュタッケルベルク均衡
③ベルトラン均衡
の3つです。
①クールノー均衡
 生産量で競争します。相手企業の生産量を踏まえた上で自社の利潤が最大になるような生産量を決定します。相手の生産量を踏まえ自社の生産量を決定するので「追随者」といいます。クールノー均衡では、お互いがお互いの生産量を踏まえ自社の生産量を決めますので繰り返しゲームとなり、反応関数の交点で均衡するようになります。均衡点はナッシュ均衡となり、これをクールノーナッシュ均衡と呼んだりします。
追随者は常に相手を出し抜こうと、相手よりも高い利潤が出せるような生産量を決めていきますが、やがて均衡するというものです。
追随者は、先に生産量を決められてしまうので利益も追っかけるようになります。追随者は常に2番手に止まるということです。

②シュタッケルベルク均衡
 生産量で競争します。クールノー均衡と異なるところは、片方の企業が「先導者」となり、他方は「追随者」となることです。先導者はライバル企業が追随してくると想定して自社の最適な生産量を決めます。ですから先導者は常に相手企業の生産量を想定しながら自社の最適な生産量を決めることで利潤を最大化しようとしますので、「先導者有利」となります。
③ベルトラン均衡
 価格で競争します。片方が「先導者」、他方が「追随者」となります。先導者は追随者がどのような価格を設定してくるかを想定しながら自社の価格を決めます。一方で、追随者は先導者が決めた価格を踏まえて自社の利潤を最大化する価格を設定するので追随者の方が有利となります。

本問は没問(受験者全員を正解とする)になっていますが、その理由は、与件の中に前提となる条件が付いていないためです。
経済学とは分析対象をシンプルにするために“仮定”を置くことで分析できるようにしています。その仮定がないと分析対象が広がるため違った解釈が成り立つことがあります。
ベルトラン均衡では価格で競争しますから、先導者は追随者がどのような価格を設定するかを想定して価格を決めますが、追随者も先導者の価格を見て自社の利潤が最大になるような価格を設定します。

このベルトラン均衡の場合、価格を設定するタイミングがキーになります。先導者が価格を決めた後で追随者がすぐに先導者の価格を見て自社の利益が最大になるように価格を決めた場合、追随者有利な状況がうまれます。相手の価格を見て「すぐにでも」(=同日)価格が変えられるという「仮定」が必要です。
しかしながら、この仮定がないため、先導者が先に価格を引き下げた場合は、逆に先導者有利の状況になるという会社も出来るわけです。

とはいえ、本来のベルトラン均衡の論点に則して選択肢を見ていこうと思います。
a:生産量で競争ですね。先導者有利です。ですから先導者の利益が高くなりますから本肢は正しい記述です。
b:生産量で競争です。先導者有利ですから、追随者有利としている本肢は不適ですね。
c:価格で競争ですからベルトラン均衡の論点です。
先導者よりも追随者有利ですから本来であれば本肢は不適なんです。
でも、前提条件が不足しているため、先導者が先に価格を下げれば先導者有利が発生するとして本肢も正しいとされました。
d:価格で競争で、追随者有利ですから本肢は正しい記述です。
ゆえに、正解は、イ である。

診断士試験は2年に1回くらい正解の訂正があります。
特に多いのは『中小企業経営・中小企業政策』でしょうか。
経済学・経済政策でこのような没問は珍しいです。