自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

経済学・経済政策【平成24年度 第20問】

【平成24年度 第20問】
 不完全競争を理解するための経済理論モデルに関する説明として、最も適切なものはどれか。

ア 寡占市場における屈折需要曲線の説明では、限界収入曲線が不連続になる点
  に特徴の1つがある。
イ 規模の経済が働き、平均費用が低下しているような自然独占の市場では、限
  界費用は平均費用を上回っている。
ウ 複占市場におけるクールノー・モデルの説明では、ライバル関係にある企業
  が価格競争(価格引き下げ競争)を行うと仮定する点に特徴の1つがある。
エ 複占市場におけるベルトラン・モデルの説明では、ライバル関係にある企業
  が数量競争(生産量を増やす競争)を行うと仮定する点に特徴の1つがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屈折需要曲線や自然独占といった新しい論点が入ってきました。
ここでは屈折需要曲線の理論について細かく見ていきましょう。

屈折需要曲線の理論は、「価格が下方硬直的になりやすい理由を説明した理論」です。アメリカ人のスィージーさんという人が考えたといわれています。

まず屈折需要曲線の理論をまとめるまえに、次のような仮定をおきます。
①値上げには追随しないが、値下げには追随する
②商品はある程度差別化されている
限界費用曲線はU字型
だとします。

横軸に生産量、縦軸に価格(限界収入)をとり、
ある寡占企業が100円で10個生産していたとする(図中の点A)。

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価格を110円にしようとします。
値上げに追随する場合は需要曲線の傾きは急になります(線分AC)。これは需要の価格弾力性が小さいためです(需要者は値上げは反応しない)。
逆に、価格を90円に値下げしようとします。
値上げに追随しない場合の需要曲線の傾きは緩やかになります(線分BA)。需要の価格弾力性が大きいためです(需要者は価格が下がるとすぐに反応します)。
だから値上げに追随する場合の需要曲線と値上げに追随しない場合の需要曲線をくっつけると屈折した需要曲線となります(線分BAC)。
値上げは、ライバル企業は追随しないので自社のみ値上げした場合は大きく需要を減らします。
値下げは、ライバルは追随するので自社が値下げしても大きく需要が増えるわけではありません。
だから、緩やかな需要曲線(値上げをした場合)と急な需要曲線(値下げした場合)がくっついて屈折した需要曲線になるわけですね。

しかし、これでは価格の下方硬直性の説明が出来ていません。
次に限界収入曲線について考えます。
限界収入曲線(以下「MR」とする)は需要曲線の傾きを2倍にした曲線になることが知られています。
ですから傾きが緩やかな需要曲線におけるMRと傾きが急な需要曲線におけるMRが描けます。

値上げに追随しない場合のMRは破線BFで示されます。
値上げに追随する場合のMRは破線GHで示されます。
このように限界収入曲線MRは不連続になることが分かりました。

寡占市場における企業の利潤最大化条件は限界費用=限界収入でした。MC=MRで価格が決まるので限界費用曲線MCが描けます。
値上げに追随しない場合の限界費用曲線をMC、値上げに追随する場合の限界費用曲線をMC’とします。限界費用曲線MCとMC’は下の図のようになりますね。

f:id:sk6960:20160411145616j:plain

技術革新などで生産性が高くなると限界費用は下がります。限界費用が下がれば、MC=MRより、価格も下がります。
しかし、屈折した需要曲線においては
①点Fを通るMCはMR=MCで利潤最大
②点Gを通るMC’はこれもMR=MCで利潤最大
つまり、FG間で限界費用MCが下落しても価格が変わらないことが分かります。なお、この場合の生産量は10個であり、価格は100円で不変です。
これで価格の下方硬直性の説明が出来ました。
つまり、この屈折需要曲線の理論は、
値上げしようとするとライバルは追随しないし、値下げはマネされる。値上げすれば客は取られるし値下げしてもマネされるだけでソンをしちゃう。でもって結局は価格据え置きがいいんじゃね?
というのが結論です。

屈折需要曲線を細かく見てみましたが、出題としてはなかなか出てこない論点ですね。
さて、選択肢を検討してみましょう。
ア:先にも見たように、限界収入曲線は不連続になります。需要曲線は屈折します。ですから本肢は正しい記述のようです。
イ:自然独占の市場では平均費用が低減します。限界費用とは生産量を1単位増加させた場合に追加的に発生する費用ですから、限界費用が平均費用を上回ることはありません。よって不適。
ウ:クールノー・モデルは生産量で競争するモデルです。ゆえに不適。
エ:ベルトラン・モデルは価格で競争するモデルです。ゆえに不適。
以上により、正解は、ア である。

 

閑話休題
 ここでクールノーモデル、シュタッケルベルクモデル、ベルトランモデルの3つを整理しておきましょう。
①クールノーモデル
<仮定>
1.企業は、ライバル企業は現在の生産量を変更しないと予測する
 →「クールノーの仮定」といいます
2.供給者は2社のみ
3.その2社の商品は同質財だとする
・生産量で競争する
・相手の生産量に合わせて自社の利潤がMAXになるように自社の生産量を決めていく
・やがてそれぞれの反応関数の交点に落ち着く
・この点を「クールノーの点」という
・この点で均衡することから「クールノー均衡」という
・クールノー均衡はナッシュ均衡でもあるから「クールノーナッシュ均衡」ともいう

②ベルトランモデル
<仮定>
1.ライバル企業の価格を前提として自社の利潤がMAXになるように価格を決める
2.供給者は2社のみ
3.その2社は同質ではなく差別化された財を供給する
→差別化されているので値下げしてもすべての需要をゲットできるわけではない
・価格で競争
・ベルトラン均衡はナッシュ均衡でもある(ベルトラン=ナッシュ均衡
・ベルトランモデルでは差別化された財で考えるが、もしこれが同質財だと価格=原価費用となる点で価格が決まり、同室財なので競争が生じるから完全競争市場と同じような最適資源配分が実現する。これを「ベルトランの逆説」という

③シュタッケルベルクモデル
<仮定>
1.イバルの生産量を所与として行動する追随者(フォロワー)とライバルの生産量に影響を与える先導者(リーダー)が存在
2.2社とも利潤MAXんあるように生産量を決定する
・生産量で競争
・先導者と追随者
・先導者有利
→先導者よりも多くの生産量を設定出来ないのが追随者
・先導者は自分の生産量を変化させることで相手の生産量が変わることを想定して最適な生産量を決定するので先導者に利益が生じる

なお、このまとめは『石川の経済』を参照しました。
クールノーモデルでは「同質財」で、ベルトランモデルでは「差別化された財」という論点は今まで出題がなかったと思われます。スピテキにも過去問マスターにも記載がありませんでしたからね。

経済学は年度によって難易度が乱高下することで有名ですから、もし難易度が上がった場合を想定するなら、「知っている知らない」系の問題が多く出たり、基本論点から1歩も2歩も掘り下げた論点から出題されることが考えられます。
だからこそ、石川の経済で勉強をしなおしたわけです。
むろん、石川の経済に出ていない論点もあるでしょうが、あまりにも石川の経済からの出題論点が多すぎることが分かります。