自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

経営法務【平成19年度 第5問】

【平成19年度 第5問】

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

 

 中小企業診断士である甲氏は、顧問先のX株式会社(以下「X社」という。)の社長乙氏から、おおむね以下の内容の相談を受けた。それに続くのは甲氏と乙氏との会話である。

 なお、本問における会社はすべて日本法人の取締役会・監査役設置会社とし、以下に記載があるほかは、本件手続きに支障のある事情はないものとする。また、本件手続きは、簡易組織再編行為・略式組織再編行為(会社法第784条・第796条)に該当しないものとする。

 

[相談内容の概要]

 X社では、現在、販売部門事業拡大を考えているが、X社の製品を販売する子会社であるY株式会社(X社の100%子会社。以下「Y社」という。)だけでは人員も能力も足りない。

 そこで、販売部門が強いZ株式会社(以下「Z社」という。)を傘下におさめたいが、単純にZ社の発行済株式全部を買い取る方法はX社の都合で難しく、また許認可の問題から事業譲渡の方法も難しいので、これら以外の方法でX社がZ社の発行済株式全部を取得してZ社をX社の傘下におさめることができる方法を知りたい。

 その場合、X社の100%子会社でX社の製品を販売する会社が2つになるので、Z社を傘下におさめると同時にZ社をY社に統合することも考えられる。

 

甲氏:「そうすると、本件でZ社を傘下におさめる方法としては、株式交換による

    方法と、いわゆる三角合併の方法の2通りが考えられます。」

乙氏:「株式交換というのと、三角合併というのは、何が違うのですか。」

甲氏:「( A )」

 

 

(設問1)

本件で想定されている株式交換の説明として最も適切なものはどれか。

 

ア X社が保有するX社の株式等と、Z社の発行済株式全部とを交換する方法。

イ X社が保有するY社の株式等と、Z社が保有するZ社の自己株式とを交換する方

  法。

ウ Y社が保有するX社の株式等と、Z社の発行済株式全部とを交換する方法。

エ Y社が保有するY社の株式等と、Z社が保有するZ社の自己株式とを交換する方

  法。

 

(設問2)

本件で想定されている三角合併の説明として最も適切なものはどれか。

 

ア X社が、Z社の株主に対し、X社が保有するX社の株式を交付する方式で、Z社

  を吸収合併する方法。

イ Y社が、Z社の株主に対し、Y社が保有するX社の株式を交付する方式で、Z社

  を吸収合併する方法。

ウ Z社が、X社に対し、Z社の発行済株式全部を交付する方式で、Y社を吸収合併

  する方法。

エ Z社が、Y社に対し、Z社が保有するX社の株式を交付する方式で、Y社を吸収

  合併する方法。

 

(設問3)

株式交換三角合併の違いに関する説明として、空欄Aに入る最も適切なものはどれか。

 

ア 株式交換の場合は、X社の株主総会決議による株式交換契約の承認が必要です

  が、三角合併の場合は、X社の株主総会決議による合併契約の承認は不要で

  す。

イ 株式交換の場合は、X社、Y社、Z社、いずれの会社の株主にも株主買取請求

  権が認められますが、三角合併の場合は、逆にいずれの会社の株主にも株式

  買取請求権は認められません。

ウ 株式交換の場合は、契約の当事者は、Y社とZ社の二社だけで足りますが、三

  角合併の場合は、契約の当事者は、X社、Y社及びZ社の三社でなければなら

  ないと会社法上定められています。

エ 株式交換の場合は、交換の対価は株式か現金でなければなりませんが、三角

  合併の場合は、合併の対価は株式、現金、社債から選択することが認められ

  ています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この三角合併の出題って後にも先にも19年度だけじゃないのかな? 他に見たことないけれどね。

三角合併の当事者ってあくまでも二社だけなんですね。この問題でいえば、三角合併の首謀者はX社だけれど、合併するとかしないとかの当事者はあくまでもY社とZ社になるところに特徴があります。三角合併を利用すれば合併に係る費用を最小限に出来るというメリットがあります。三角合併は、首謀者たる親会社の株式が時価総額が大きいとやりやすいと言われています。

また、日本の国内法では、外国企業による日本企業の買収は不可とされているので、こういった国境をまたいだ買収には三角合併が使われることが多い。

 

たとえば、

アメリカーナという外国企業があり、日本国内の甲社を買収したいと考えている。ところが、日本の国内法では、直接的にアメリカーナ社が甲社を買収することは出来ない。

そこで、アメリカーナ社は、日本国内にアメリカーナ社の日本子会社であるジャポーネ社を新設した。

日本子会社であるジャポーネ社は、甲社に対して吸収合併をもちかけ、親会社であるアメリカーナ社の株式を対価に甲社をジャポーネ社に吸収合併した。

甲社は、ジャポーネ社に吸収合併され、親会社であるアメリカーナ社の傘下におさまった。

ってな感じでしょうか。

ポイントは、日本企業を買収するときの対価を、存続会社の株式ではなく、親会社の株式を渡す点です。

三角合併についても、平成17年の改正論点ですから平成19年度の出題で取り上げられたのでしょうね。

さて、設問1からまいりましょう。

設問1は株式交換についてです。

株式交換は完全親子会社を作る組織再編の手法です。合併とは異なり、子会社として会社は残ることになるのが株式交換ですね。

本問の場合は、X社が親会社でY社は子会社。傘下に入れようとしているのがZ社ですね。

株式交換という手法でZ社を傘下におさめられるケースは、

①X社株式とZ社の株式全部を交換する

②子会社であるY社株式とZ社の株式を全部交換する

の2通りです。

それでは選択肢を検討しましょう。

アです。X社株式とZ社株式全部を交換する方式は、X社とZ社との間で親子関係が成立しますから正しい記述です。

イは、X社が保有するY社株式とZ社が保有するZ社の自己株式を交換する方法とあります。X社の傘下におさめたいのにY社株式を対価として渡すのはふさわしくないですね。しかも、Z社の自己株式だけをゲットしても傘下におさめることはできません。ゆえに不適。

ウです。Y社が保有するX社株式と、Z社の株式全部を交換すると、Z社の親会社はY社になります。X社の傘下に入れないといけませんからX社が当事者であるべきです。よって不適。

エです。Y社が株式交換の主体になってもX社の傘下には入れませんし、Z社の自己株式だけでは親子関係は出来ない。

したがって、正解は、ア です。

 

次に設問2にいきましょう。

三角合併についての出題です。先にも述べたようにポイントは、完全親会社の株式を対価に吸収合併するところにあり、本問でいう、X社が登場しないことが重要です。あくまでもY社とZ社が主体であり、X社は株式を対価として渡すだけ、というところに注意しましょう。

アは、当事者にX社が出ていますから不適。

イは正しい記述。

ウは、Z社がY社を吸収合併するのではなく、Y社が吸収合併するのです。不適。

エは、Z社はX社の株式を持っているはずがないです。

したがって、正解は、イ である。

 

最後の設問3。

空欄Aは、株式交換と吸収合併の違いについての説明ですね。

さっそく選択肢の検討にはいりましょう。

アからみてみます。

そもそも株式交換は親子関係をつくります。株式交換によって株主は所有する株式が変わりますから株主総会の特別決議が必要です。一方、三角合併は、Y社とZ社との間で吸収合併という組織再編行為が行われますから、Y社、Z社では承認株主総会が必要です。X社は三角合併の首謀者であっても当事者ではないですから株主総会は不要です。ゆえに、アは正しい記述になりそうです。

イに移りましょう。

株式交換はX社とZ社との間です。ですからY社はほとほと関係がないのでY社株主には買取請求権は発生しません。

また、三角合併も同様で当事者のY社、Z社の株主には買取請求権は発生しますが、X社株主には買取請求権は発生しませんので不適。

ウです。株式交換の当事者はX社とZ社です。それに三角合併の当事者はY社とZ社であり、X社は出てきません。会社法で「三社でなければならない」と決められていないです。よって不適。

エは、株式交換の対価は株式でも現金でも社債でも新株予約権でもよいです。ただし、三角合併は親会社の株式を対価とすることで吸収合併することになりますので現金、社債から選択とする肢の内容は不可。

以上により、正解は、ア となる。