経営法務【平成21年度 第2問】
【平成21年度 第2問】
A株式会社(以下「A社」という。)は、100パーセント子会社であるB株式会社に対し、A社の事業の一部を分割し、吸収させることを検討している。A社の貸借対照表及び分割を検討している資産等の状況は下記の通りである。これを前提とした簡易吸収分割(会社法第784条第3項)に関する説明のうち、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
A社貸借対照表
(単位:百万円)
(資産の部) (負債の部)
固定資産 1,350 固定負債 900
負債合計 1,150
(純資産の部)
資本金 480
利益剰余金 770
純資産合計 1,250
資産合計 2,400 負債・純資産合計 2,400
A社が分割を検討している資産、負債の項目及び帳簿価額
(単位:百万円)
(資 産) (負 債)
固定資産 200
合計 230 合計 100
〔解答群〕
ア 分割対象となる資産合計額から負債合計額を控除した額は1億3,000万円
で、A社の総資産額の5分の1を下回っているが、20分の1を超えるので、
簡易吸収分割の規定が適用とならず、A社では、吸収分割契約を承認する株主
総会を開催する必要がある。
イ 分割対象となる資産合計額から負債合計額を控除した額は1億3,000万円
で、A社の純資産額の5分の1を下回っているので、簡易吸収分割の規定が適
用となり、A社では、吸収分割契約を承認する株主総会を開催する必要がな
い。
ウ 分割対象となる資産額合計は2億3,000万円で、A社の純資産額の5分の1を
下回っているが、20分の1を超えているので、簡易吸収分割の規定は適用と
ならず、A社では、吸収分割契約を承認する株主総会を開催する必要がある。
エ 分割対象となっている資産額合計は2億3,000万円で、A社の総資産額の5分
の1を下回っているので、簡易吸収分割の規定が適用となり、A社では、吸収
分割契約を承認する株主総会を開催する必要がない。
さて、検討のポイントは明白ですね。
「1億3,000万円」か「2億3,000万円」か?
「20分の1を超える」って何か?
ですよね。
簡易吸収分割を含めた簡易再編では以下の点がポイントでした。
まず、分割会社は、承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が、分割会社の総資産額の5分の1を超えない場合、株主総会特別決議は不要でした。
また、承継会社では、対価として渡す株式、社債、新株予約権、その他財産の帳簿価額の合計額が、承継会社の純資産額の5分の1を超えない場合、株主総会特別決議が不要になります。この場合、分割会社のデータしか与えられておらず、承継会社についての記述が一切ないため、承継会社に承継させる資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1を超えなければオーケーそうですね。
使い分けのポイントは、
①分割会社のデータしか与えられていない → 総資産額
②承継会社のデータしか与えられていない → 純資産額
となりそうです。
スピテキには「20分の1」という記載は全くなかったため、これって改正前の条件に20分の1というのがあったのかもしれませんね。
選択肢の検討の前に与件を整理しておきましょう。
分割会社、この場合はA社ということになりますが、A社の総資産額は24億円です。その5分の1は4億8,000万円です。分割対象の資産は2億3,000万円ですので、5分の1を下回っているということになります。
それではアからみていきます。
アの記述の中に、分割対象となる資産合計額から負債合計額を控除、とありますが、控除してよいのでしょうかね? 控除できるとしたら、負債が多い部門をやたらめったら切り離して分割しまくりってことが出来ますね。そういうことって健全なのかってことです。また「20分の1」という記述もあることからアは不適っぽいことが分かります。
イです。だから控除していいのかってことです。なので、不適っぽいとしておきます。しかも「純資産額」ってあるし。
ウですが、これは控除していません。その代わり、「20分の1」という記述がありますのでどうも不適っぽいです。「純資産額」もダメです。
エは、2億3,000万円のままですし、5分の1を下回っています。そうすっと、簡易再編の場合には株主総会が不要になりますからどうやらエが正解の候補のようです。
ちなみに、「20分の1」は旧商法時代の規定。負債額は控除しないです。負債額が大きいほど簡易分割の要件を満たしやすいとすると、株主の利益に相反する可能性があるからです。
なお、純資産額は承継会社における要件ですから混同しないようにしませんと。
以上により、正解は、エ である。