自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

経済学・経済政策【平成21年度 第10問】

【平成21年度 第10問】
 次の輸入関税と生産補助金の効果に関する文章を読んで、経済厚生分析の説明として、最も不適切なものを下記の解答群から選べ

 下図は、輸入競争財市場(たとえば農産物)を描いたものである。いま、当該財の国内需要曲線がDDで、国内供給曲線がS1S2で描かれている。ここで、自国は「小国」であり、当該財の国際価格をPfとする。自由貿易下での消費量はQ1、生産量はQ2であり、輸入量は(Q1-Q2)に等しい。

f:id:sk6960:20160425112159j:plain
 ここで、当該財の輸入にTの関税を賦課した場合、国内価格はPd(=Pf+T)に上昇する。この結果、消費量はQ3に減少し、生産量はQ4に増加する。他方、生産補助金を交付することで輸入関税の場合と同じ生産量Q4を実現することも可能である。このとき、生産補助金の交付により、国内供給曲線はS1S2からS3S4に平行移動する。


〔解答群〕
ア 生産者に対する補助金交付額は、四角形S1HIS3に相当する。
イ 生産補助金交付時の経済余剰の損失は、三角形EFGになる。
ウ 生産補助金交付時の生産者余剰は、三角形PfIS3に当たる
エ 輸入関税下における経済余剰の損失は、三角形EFGと三角形HIJの和になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて本問は「生産補助金」が論点となっています。
「関税」の場合、価格線が上下にシフトしましたが、生産者に補助金を交付すると価格線だけでなく、供給曲線もシフトするようになります。
関税との違いはまさのこの点であり、消費者価格を下げる、国内供給量を維持する目的で補助金を交付し、生産量をキープしようとします。
つまり、安価な輸入品が流入し、国内品の需要減により国内品の供給も減。そこで供給量を維持するために補助金を交付して国内供給量を増やそうということです。

図を示しながら細かく見ていきましょう。

f:id:sk6960:20160425112417j:plain

もともとの均衡点は点Eです。そのときの価格=P0、生産量=Q0 です。

自由貿易が始まり、
価格=P1  生産量=Qc  需要量=Qf  となりました。
輸入量は(Qf-Qc)ですね(線分CFです)。

政府は当該財に関税Tを賦課することにしました。
価格=P1+T  生産量=Qj  需要量=Qk です。
すると、輸入量は減少してしまい、Qk-Qj(線分JK)となりました。

これにより、消費者価格は、P1 → P1+T と上昇し、安価な輸入品に押され、国内供給量も減少し、どんどん供給曲線が左にシフトしていきます。
結果、需要量は不変(需要曲線は動いていないから)ですから輸入品増、関税増となってしまいます(図参照)。

f:id:sk6960:20160425112250j:plain

f:id:sk6960:20160425112353j:plain

このままじゃたまらんですから、政府は供給者の生産量=HJ(=GL)を保つように補助金を出そうと考えます。
そこで、国内供給量を増やすためには消費者価格を下げるのが良いと考え、補助金を(単位あたり)T円としました。そうすると、価格線は、価格がT円分減りますので下にシフトします。ゆえに補助金を交付した場合の価格=P1 です。
関税がかけられていたときの生産量=Qj でした。このまま関税が続いて国内生産量が減っていくと供給量はどんどんへっていきますから補助金を出して生産量=Qj に保とうとしたわけですね。
ですから、補助金=T円 を出して価格をP1+T からP1にします。
そうなると、国内供給曲線Sは右にシフトしてS’となり、生産量Qj が保たれます。

国内供給曲線がSのとき、価格はP1+T でしたからその交点はJです。したがって生産量は=Qj でした。
国内需要曲線は不変ですからこのままだと安価な輸入品が増えていき、国内での供給量は減少します。供給曲線の左シフトです。
そこで、政府は、国内供給量を増やす、つまり生産量=Qj に戻すために単位あたりT円の補助金を交付することにしました。ですから価格=P1 になります。
生産量=Qj とし、価格=P1としますから、その交点は点Lです。
ゆえに国内供給曲線が右にシフトするわけです。図ではS’となっていますね。

次に補助金交付時の余剰分析です。ここでは、
①もともと
自由貿易
③関税賦課時
補助金交付時
の4つについて同時にみていきましょう。

 

<価格のライン>
①もともと → P0
自由貿易 → P1
③関税 → P1+T
補助金交付 → P1

<消費者余剰>
①もともと → ①
自由貿易 → ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪
③関税 → ①②③④⑤
補助金交付 → ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪

<生産者余剰>
①もともと → ②⑥⑫
自由貿易 → ⑫
③関税 → ⑥⑫
補助金交付 → ⑫⑬⑭

<政府余剰>
①もともと → ナシ
自由貿易 → ナシ
③関税 → ⑧⑨⑩
補助金交付 → マイナス⑥⑦ または マイナス⑦⑬⑭

<総余剰>
①もともと → ①②⑥⑫
自由貿易 → ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑫
③関税 → ①②③④⑤⑥⑫⑧⑨⑩
補助金交付 → ①②③④⑤⑧⑨⑩⑪⑫⑬⑭

<余剰の損失>
①もともと → ナシ
自由貿易 → ナシ
③関税 → ⑦⑪が減る
補助金交付 → ⑦が減って⑪が増える

 

これらを整理した図表がこれです。
なお、輸入数量規制の場合には関税と同じ結果になります。関税と輸入数量規制の等価命題です。 

f:id:sk6960:20160425112947j:plain

(重要な)前置きが長くなりましたが、選択肢を検討していきます。
ア:生産者に対する補助金額を問うています。
先ほどの図でいうなら、補助金は⑥⑦または⑦⑬⑭です。⑥⑦は四角形PdHIPfですし、⑦⑬⑭なら四角形S1HIS3です。ゆえに本肢は正しい記述なので不適です。
イ:補助金交付時の余剰の損失は⑦です。⑦は三角形HIJですから余剰の損失を△EFGとする本肢は誤りです。よってこれが正解。
ウ:補助金交付時の生産者余剰は⑫⑬⑭です。三角形PfIS3ですので正しい記述です。ゆえに不適。
エ:次は関税下における余剰の損失は⑦⑪の部分です。△HIJと△EFGですから正しい記述です。
以上により、正解は、イ である。