経営法務【平成18年度 第5問】
【平成18年度 第5問】
照明器具の製造販売をしている会社Xは、勤務規則において従業員がした職務発明について特許を受ける権利を会社Xに譲渡することを定めている。従業員甲は、照明器具の傘の形状を工夫し、照明灯の反射率を向上した照明器具aの発明をした。
この照明器具aは、形状に特徴を持った発明であるとともに、デザイン的にも新規で優れた形態を有している。そこで、従業員甲は、勤務規則に基づいて照明器具aについての特許を受ける権利を会社Xに1999年12月20日に譲渡した。
会社Xは、この特許を受ける権利に基づいて2000年1月20日に特許出願し、特許権Aを2002年4月20日に取得したので、2年後の2004年4月20日に照明器具aを商品化して製造販売を開始した。
すると、ライバルの会社Yから、「貴社の照明器具aは、わが社の意匠権Bを侵害するので製造販売を中止してもらいたい。」という警告を受けた。そこで会社Xが調査したところ、会社Yの意匠権Bは、会社Xの特許出願日より遅い2000年12月30日に出願されており、意匠権Bに係る意匠は、会社Xが製造販売する照明器具aと全く同一で、この意匠権Bについての意匠登録を受ける権利は、会社Xの従業員甲から譲渡されたものであることが判明した。会社Xの勤務規則には、意匠登録を受ける権利に関する規定は存在していない。
そこで、あなたは、会社Xからどのように対応したらよいか相談を受けた。この相談に対するあなたのアドバイスとして、最も適切なものはどれか。
ア 会社Xの勤務規則に意匠登録を受ける権利に関する規定がないので、会社Xの
従業員甲が意匠登録を受ける権利を会社Yに譲渡することは何の問題もなく、
会社Xは、会社Yの許諾を得なければ、照明器具aについて継続して製造販売
することはできません。
イ 会社Yの意匠権Bの意匠登録を受ける権利は、会社Xの従業員甲が創作した意
匠についてでありますので、会社Xは、このまま照明器具aについて製造販売
を継続しても問題はありません。
ウ 会社Yは、会社Xの従業員甲に相当の対価を支払って意匠登録を受ける権利の
譲渡を受けて意匠権Bを取得したものでありますから、会社Xは、会社Yが従
業員甲に支払った対価を会社Yに支払えば、意匠権Bが会社Xに移転されま
す。
エ 従業員甲は、会社Xの従業員であり、もともと会社Yに意匠登録を受ける権利
を譲渡することなど許されないことなので、会社Yの意匠権Bは無効であり、
会社Xは、従業員甲の意匠登録を受ける権利に基づいて意匠登録出願を行え
ば、独自に意匠権を取得することができます。
モメてますなぁ~(笑)
でも現実世界ではこういった事例というのはあるんでしょうかね?
時系列で確認していきましょう。
1999年12月20日 従業員甲:特許を受ける権利を譲渡
2000年1月20日 会社X:特許出願
2000年12月30日 会社Y:意匠登録出願
2002年4月20日 会社X:特許取得
2004年4月20日 会社X:特許に基づく商品を製造販売開始
現 在 会社X:会社Yから意匠権侵害との警告受ける
どうもこれは先使用権とかじゃなくて、職務創作が論点になりそうですね。
職務発明、職務考案、職務創作いずれも同じ考え方でいけます。ここは照明器具aを創作したのが会社Xでの勤務中であったことにポイントがありそうです。
そうすると、会社Xが照明器具aに関する意匠を実施するには相当の対価を払って意匠を受ける権利を譲渡してもらうか、そうでなければ無償の通常実施権が与えられるという解釈ですな。
だから会社Yに意匠権があっても、照明器具aに関する意匠は職務創作であるから会社Xに無償の通常実施権があるということでしょう。
それらを踏まえて選択肢を検討しましょ。
アは、会社Xには通常実施権がありますから、会社Yの許諾なしに製造販売を継続することができますね。勤務規則に譲渡に関する条項があるとかないとかは関係ありません。よって不適。
イは、照明器具aに関する意匠は会社Xの従業員甲が創作したものですから、職務創作に該当しますね。意匠権が会社Yにあっても、会社Xには通常実施権がありますから本肢は正しい記述のようです。
ウです。対価を払えば移転されるかぁ? 法律的にはそういう規定はないはずだよね。もっとも、会社XとYの間でそういう契約をすればハナシは別だけれど、この記述はおかしい。
エは、会社Yの意匠権Bは無効というのがおかしいね。従業員甲が会社Yに譲渡したことはともかく、会社Yは正当に意匠権を取得しているので無効になるはずがないな。それに勤務規則に意匠権に関する規定もないし、従業員甲が会社Yに譲渡し会社Yが意匠権を取得したことは何ら問題はない。
以上により、正解は、イ である。