経営法務【平成23年度 第14問】
【平成23年度 第14問】
企業情報の法的保護に関する次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
企業における技術、ノウハウ、顧客情報等の企業情報について、企業が収益を産み出す知的資産としての法的な保護を享受するためには、そのような企業情報が( A )により特許権等の知的財産権を取得して活用するのにふさわしいものか、それとも( B )し、不正競争防止法上の営業秘密等の機密情報として管理していくのが適切なものかを振り分けていくという経営判断が必要になる。
企業情報が不正競争防止法上の営業秘密として保護されるためには、秘密として管理されていること(秘密管理性)、有用な営業上または技術上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)の3要件をすべて満たすことが必要とされている。例えば、技術・ノウハウ等を記録したデータファイルが企業内のサーバーコンピューターに保存されていたが、アクセス制限がなく、パスワードも設定されていないという状態では、( C )の要件を欠き、営業秘密とは認められない可能性が高い。
平成21年の不正競争防止法の改正により、営業秘密の侵害行為に対する処罰範囲が拡大され、改正前は不正競争の目的で、詐欺、窃盗、横領等の不正な方法により営業秘密を使用しまたは開示する行為等だけが処罰の対象とされていたものが、改正後は、(1)不正の利益を得たり保有者に損害を加えたりする目的で、営業秘密を不正な方法によりしようしまたは開示する行為、さらには、(2)上記(1)の目的で、不正な方法により、営業秘密を第三者が取得、または従業員・取引先等が領得する行為等も処罰の対象とされることとなった。その結果、( D )行為、( E )行為等も、営業秘密の侵害として処罰されることとなった。
(設問1)
本文中の空欄A~Cに入る用語の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア A:オープン化 B:ブラックボックス化 C:非公知性
イ A:オープン化 B:ブラックボックス化 C:秘密管理性
ウ A:ブラックボックス化 B:オープン化 C:秘密管理性
エ A:ブラックボックス化 B:オープン化 C:非公知性
(設問2)
本文中の空欄D・Eに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア D:機密保持契約を締結して提携先企業から提供を受けた営業秘密を、機密保
持契約に違反して提携終了後に記憶媒体から消去したように装って実際に
は消去せず、自社の製品開発に利用する。
E:社内規定による許可なしに営業秘密記録媒体を自宅に持ち帰って残業する
イ D:自社の内部告発規定に違反する方法で、自社の不正情報とともに営業秘密
をマスコミに提供し、謝金をもらう
E:社内規定による許可なしに営業秘密記録媒体を自宅に持ち帰って残業する
ウ D:社内規定による許可なしに営業秘密記録媒体を自宅に持ち帰って残業する
E:報酬を得る目的で、保有企業に無断で営業秘密を外国政府に開示する
エ D:保有企業への嫌がらせ目的で当該企業の営業秘密をネット上の掲示板に
書き込む
E:報酬を得る目的で、保有企業に無断で営業秘密を外国政府に開示する
(設問3)
企業の保有する技術・ノウハウ等を営業秘密として管理する場合のメリット・デメリットに関する記述として最も適切なものはどれか。
ア 一定期間、譲渡可能な排他的独占権を取得できる一方で、出願内容を公開す
ることが権利取得の前提となるので、自社の開発動向が他社に知られること
になる。
イ 失敗した実験のデータ等のノウハウも保護対象になり得る一方、保護期間が
満了すればだれでも利用可能となる。
ウ 事前の審査を通じて権利の内容が明確となるが、他社が同一技術を独自開発
した場合には独占できなくなる。
エ 製品の分解等により明らかにならない限り、保護期間の制限がなく、他社と
の差別化を図ることができる一方で、登録制度がなく、権利の存否・内容が
不明確となりがちである。
これも問題文が長い(笑)
経営法務は試験時間が60分ですから手際よくやっつけていかないと時間切れになりそう。幸いにも27年度の試験では時間切れということはなく、むしろ見直しできるだけの時間を得ることが出来ましたから時間配分という点では良かったと思います。
さて、設問1は穴埋め問題です。
特許権等を取得するのがAで、不競法上の営業秘密として管理するのがBということですね。
特許権は出願公開制度があり、出願して1年6ヶ月経過すると自動的に出願内容が公開されます。ですからそういう意味で「オープン化」が入ります。
また、不競法上での営業秘密として管理するのは「ブラックボックス化」でしょう。営業秘密っていうくらいだし。
次の空欄Cは「アクセス制限がなく」「パスワードも設定されてない」とあります。営業秘密として認定される3要素としては、①秘密管理性 ②有用性 ③非公知性 をすべて満たす必要がありました。アクセス制限に関わる要素は「秘密管理性」であり、その他には「客観的認識可能性の存在」も要件として該当します。ですからCには秘密管理性が当てはまりそうです。
以上により、正解は、イ です。
次の設問2ですが、不競法改正で新たに設けられた罰則規定に関する問いです。
そもそも不競法は「不正な競争を目的とした、不正な方法により営業秘密の使用または開示」を禁じていましたが、平成21年の改正では、不正競争の目的以外でも、不正の利益を得ることが目的でも罰せられることになり、また第三者または従業員、取引先が不正な方法で営業秘密を領得することも罰せられるとしています。そこらを踏まえて選択肢を検討することにします。
アです。
Dですが、「提携終了後に記憶媒体から消去したように装って」とあります。これはいかにも不正な方法での入手って感じですね。ゆえにDは正しいとしましょう。
Eですが、いわゆる持ち帰り残業です。もしこれが不競法違反なら多くのサラリーマンが逮捕されています(笑) しかも不正競争目的でもないし、不正の利益を得る目的でもないので正しい記述とは言えないです。ゆえにアは不適。
イです。
Dの「謝金をもらう」ってのがいかにも不正の利益を得る目的に思えます。謝金をもらうのが目的だとしたら違反になるかもしれません。
Eは持ち帰り残業の記述ですから不適。ゆえにイも不適。
ウです。
Dの持ち帰り残業は不適。
Eは、「報酬を得る目的」とあり、「無断で」とありますからダメですね。
ということはエが正解でしょうか。
Dは「嫌がらせ目的」とあります。ネット上の掲示板に公開すれば第三者が情報を得ることもあり得るしこれは加害目的だといえそうです。
Eはウと同じ記述で不競法違反になりそうです。
以上により、正解は、エ である。
最後の設問3ですが、営業秘密として管理する場合のメリット・デメリットを問うています。
営業秘密は、それが営業秘密として認定されるには3つの要件がありました。不競法によって保護されうるとはいえ、特許権等のように保護される訳ではありません。選択肢を見てみましょう。
アです。一定期間、譲渡可能な排他的独占権を取得できるのは産業財産権です。
イは、保護期間が満了すれば、とありますからこれも産業財産権です。
ウは、営業秘密には事前の審査はないです。
エは、営業秘密は保護期間はないですし、登録制度もないです。ですから正しい記述です。
以上により、正解は、エ である。