自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

第88話 経営法務24 特許権で儲けることが出来ます

経営法務二つ目の柱の産業財産権に突入しております。ちなみに特許権で得る収入は固定資産に該当しますです。特許は取得前、取得後にもそれなりにカネがかかりそうですが、その特許を第三者に使用させた場合に得られる収入も結構ナイスな額になりそうですよね? 特許は第三者にそのノウハウ等を公開するリスクを負う一方で、排他的独占権を認めています。今回は第三者に実施させたらとか、検査官が間違って過去に登録した特許を再度認めたらなどといったことなど、かなり具体的な話題に入ります。

 まずは特許権の効力について。
 特許法では、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」と規定している。専有だから独占的・排他的に実施できることを意味するわけだ。逆に以下の行為は特許権の侵害にはならないとされている。一つは試験研究のために実施すること。今ひとつは医師など処方箋による調剤行為または調剤する医薬だ。つまり医療行為は発明には該当しないから特許権侵害とはならない
 特許権の存続期間について。
 特許権は登録により発生し、出願の日から20年存続する。ただし、農薬や医薬品といったものについては5年を限度に期間を延長することが認められている

 特許権 → 出願の日から20年

 特許権は財産権でもある。だから他人に譲渡することが出来る。なお、譲渡とは贈与や売却をさす。また、相続や合併などによる承継の対象にもなる。移転の効力は登録により発生する。

 特許権 → 贈与、売却、相続など譲渡可能。一般承継除き登録必要

 特許権者は、他人に特許発明をライセンスして、ロイヤルティを得ることが出来る。実にこれで商売が出来るなとも思うのだが、特許を取得するまでが大変だし、ライセンス料で喰えるほどの特許が取得できるかどうかも微妙だけれどね。ゴホン。他人に特許発明を利用させる権利を実施権といい、専用実施権と通常実施権の二つがある。
 専用実施権とは、設定した範囲(期間、地域、実施範囲)において、その特許発明を排他独占的に利用できる権利である。専用実施権の設定には、設定契約および設定登録が必要である。

 ●専用実施権 → 設定登録必要

 この専用実施権を設定すると、特許権者であっても当該特許発明を実施することが出来ない

 通常実施権は3種類ある。実施許諾契約で定めた範囲内で特許発明を実施できる権利を「許諾による通常実施権」という。これは専用実施権とは異なり、独占性がない。また、許諾した特許発明を自らも実施することが出来るし、他人に重複して通常実施権を許諾することも出来る。これとは逆で、契約によらず、一定の要件を満たすことで法律上当然に発生する通常実施権を「法定通常実施権」という。これに該当する“一定の要件”については後述する。その他に「裁定通常実施権」というものがあるが、さして重要ではない。
 そして通常実施権は登録が不要である。

 ●通常実施権 → 設定登録不要。重複して通常実施権を許諾することも可

 このように専用実施権も通常実施権も自らの特許発明を他人が利用できるようにする仕組みなわけだが、第三者である他人に勝手に使われたり、模倣等による侵害から保護する制度が整備されている。それが仮専用実施権と仮通常実施権である。

 特許出願段階(特許権発生前)のライセンスを保護するためにこれらの制度が採用されている。ありていに言えば、特許取得前に、まだ出願中ではあるが、専用実施権および通常実施権の予約を認めるという制度のことだ。仮専用実施権の設定は設定登録が必要である。内容的には専用実施権および通常実施権と変わらない。

 ●仮専用実施権 → 設定登録必要
 ●仮通常実施権 → 設定登録不要

繰り返しになるが、特許権は財産権であるから譲渡できる。また契約によって専用実施権や許諾による通常実施権を設定することも出来る。特許権は財産権だ、という意味で特許法では質権も設定できるとしている。民法上の質権とは異なり、質権者に特許権・実施権を提供する必要はなく、質権設定後も自ら特許発明を実施することが可能である。質権者が特許発明を実施するためには特約が必要

 特許権 → 質権の設定も可
       質権者が特許発明を実施する場合は特約必要

特許権および専用実施権を目的とする質権の設定には登録が必要である。通常実施権には質権の登録設定は不要。

 ●質権 → 特許権、専用実施権では登録が必要
      通常実施権には登録は不要

なお、特許を受ける権利には質権は設定出来ない。

 次の話題は「共同発明」について。
 共同発明とは、複数の者が共同して完成させた発明のこと。たとえば、チームを組んで、ある発明をすると、特許を受ける権利はチーム構成員全員の共有となる。つまり、この場合の特許を受ける権利は不可分であるため、特許出願は共同でしなければならない特許権が共有となっているから、各共有者は他の共有者の同意がなければ自己の持分を譲渡したり、専用実施権や通常実施権などの設定・許諾を行うことは出来ない。なお、それぞれの共有者が自分で特許を実施することは、原則として自由。持分の放棄も自由。でも譲渡は自由じゃない。

 ●共同発明 → 特許出願は共同。
 ●共同発明による特許権 → 他の共有者の同意がなければ譲渡、実施権を設定・許諾出来ない
 ●特許権の実施、持分の放棄 → 自由

 まだまだ続くぜぇ。次は職務発明
 職務発明とは、従業員等の発明であって、その性質上、使用者等の業務範囲に属し、かつその発明をするに至った行為が、その使用者等における従業員等の現在または過去の職務に属する発明のこと。たとえば、企業の製品開発の一環としてなされた従業員の発明などが職務発明にあたる。だから従業員の発明であっても、職務によらない発明は職務発明に該当しない

 職務発明 → 従業員等の発明で、現在または過去の職務に属する発明

 この職務発明では、特許を受ける権利は発明者である従業員等にある。しかし、企業活動の一環だし、研究開発費などある一定の投資をしている以上、会社もその発明に対して何らかの貢献があるわけだ。だから特許法は次のような規定を置いている。

 ①従業員等が特許を取得すると、使用者たる企業は無償の通常実施権をもつ
 ②使用者等が、予め就業規則等に「特許を受ける権利の承継」「特許権の承継」「(仮)専用実施権の設定」を定めていた場合、使用者等がこれらの権利を受けた場合は、従業員等は「相当の対価」の支払を受ける権利を持つ

このあたりは企業側から法改正の必要性が主張されているようだが、発光ダイオードに関連する一連の訴訟をみても、企業側には相当な負担が生じるだろうからね。是々非々あるようだけれど、どうなるんでしょうか?

 職務発明:従業員に特許権 → 使用者側に無償の通常実施権
 ●職務発明特許権を使用者側に承継 → 従業員等に相当の対価を支払う

次は「先使用権」について。
 言葉で表現しようとすると非常に分かりにくい。一応、書いてみようか。
 「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、特許出願の際、現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者に対して、その実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内において、特許権の発生後も引き続きその発明を業として実施できる無償の通常実施権」のこと。ね? 分かりにくいでしょ?
 たとえば、こうね。
 A社は2010年から##という製法でパンを生産している。
 B社は2013年に##という製法を特許出願、2014年1月に特許権を取得した。
 A社はB社が##という製法を特許出願したことを知らないでいる。
 当然B社は、2014年2月にA社に対して、特許権を侵害している旨の警告書を出している。
 A社は、B社の特許取得前から##という製法でパンを生産していたことを証明できれば、A社には無償の通常使用権が与えられるというもの。この「先使用権」はいかにも問題に出しやすそうですよね。だからこういうふうに具体的な事例で出題されてくるわけです。

 ●先使用権 → 善意のA社に無償の通常実施権

 次に「中用権」について。
 中用権とは、無効審判の請求登録前の善意の実施者に認められる有償の通常実施権のこと
 たとえば、こう。
 C社は2010年10月に$$という製法でうどんを生産することで特許権を取得した。
 D社は2011年12月に$$という製法でうどんを生産することについて特許出願した。
 そしたらなんと、D社の特許出願が認められた。
 これは特許庁の誤りであり、先願主義により本来は特許権を得られないはずなのに特許権が付与された場合、D社は引き続き、製法$$でうどんを生産することが認められる。この場合は有償の通常実施権となる。

 ●中用権 → 善意の後願の特許権者に有償の通常実施権

 続いては用尽論。消尽論ともいう。
 用尽論とは、と居発明の実施品の製造・販売が正当に行われた後では、特許権は用い尽くされたものとなり、もはや同一物につき特許権者は特許権を行使することが出来ないという理論。実は特許法上には明文化されていないが、原則、知的財産権全般に適用される。なお、半導体チップ法には明文化されている
 最後に移転請求権。
 特許を受ける権利を有さない者が、不正・違法な出願をすることがある。例えば共同発明。本来は全員で出願しなくてはならないが、ある者が他の発明者に無断で単独に出願した場合などだ。この場合には、真の権利者は、移転請求権を行使してその特許権を取り戻すことが出来る。
 甲と乙が同じ職場において共同でαという製法を発明した。共同発明だ。だから当然に共同で出願しなければならない。
ところが、特許出願前に乙が退職してしまった。
数ヵ月後、共同出願しようとしていたαという製法が乙と丙の名前で特許権の設定登録がされていることを特許公報で知った。
本来は、甲と乙で共同出願しなければならず、特許を受ける権利のない丙と共同で出願していることが分かったため、甲は移転請求権を行使して、丙から権利を取り戻すことにした。この場合、丙に対する同意は不要。
・・・みたいな感じでしょうか。

ここまで特許権についてを概観した。
長かったねぇ~。

次回は実用新案権についてやります。