自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

経済学・経済政策【平成17年度 第5問】

【平成17年度 第5問】
いま、変動為替レート制を採用している2国(自国と外国)を想定する。両国では、物価は硬直的であり、為替レートの変動に伴う為替差益・差損はゼロであると考える。
また、資本が両国間を自由に移動するために、自国利子率と外国利子率は均等化し、国際的な金利裁定が成立する。なお、為替レートの変動によるJカーブ効果は発生していないものとする。
このような前提に基づき、下記の設問に答えよ。


(設問1)
自国が財政政策を発動して政府支出を増加させた場合、いかなる効果が期待できるか。その説明として最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

a 外国では、経常収支の改善を通じて、所得の増加が生じる。
b 自国が発動する財政政策は、近隣窮乏化政策になり、
 自国から外国への失業の輸出を引き起こす。
c 自国が発動する財政政策は、内外利子率を低下させる。
d 自国では、利子率の上昇に伴う民間投資支出の減少、
 経常収支の悪化が生じるが、所得は拡大する。
e 変動為替レート制の内外経済の隔離効果が作用し、
 外国経済への波及は何ら生じない。


〔解答群〕
ア a と c   イ a と d   ウ b と c   エ b と d   オ c と e

 

(設問2)
自国が金融政策を発動して貨幣供給を増加させた場合、いかなる効果が期待できるか。その説明として最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

a 外国では、通貨価値の下落を通じて経常収支が改善し、所得が増加する。
b 自国が発動する金融政策は、近隣窮乏化政策になり、
 自国から外国への失業の輸出を引き起こす。
c 自国が発動する金融政策は、内外利子率を低下させる。
d 自国では、民間投資支出が減少する分だけ、所得の拡大幅が小さくなる。
e 自国では、通貨価値が上昇し、経常収支は改善する。


〔解答群〕
ア a と c   イ a と d   ウ b と c   エ b と d   オ c と e

 

 

 

 

 

 

これってひょっとするとマンデル=フレミングモデルでしょうか。変動為替レート制で「資本が両国間を自由に移動」とありますからね。だとすれば、マンデル=フレミングモデルにおける財政政策と金融政策の効果について問われているのでしょう。
変動相場制で資本移動が自由な場合(すなわちマンデル=フレミングモデルですが)、財政出動を行うと次のようなプロセスを経ます。
拡張的財政政策→IS曲線右シフト→国際利子率上昇→海外資金流入→資本収支黒字化→円高ドル安→(自国)輸出減・輸入増→経常収支悪化→財市場でIS曲線左シフト→元に戻る ∴無効
次に金融政策を発動するとこうなります。
金融緩和策を採り名目貨幣供給量を増やす→LM曲線右シフト→国際利子率下落→海外資金流出→資本収支悪化→円安ドル高→(自国)輸出増・輸入減→経常収支改善→総需要増→財市場においてIS曲線右シフト→BP曲線上で均衡 ∴きわめて有効

ことに最近は結論を問わないで途中のプロセスを問うてみたり本問のように自国ではなく外国の状況を問うてきたりするところが特徴的です。

なお、このIS-LM-BP分析は労働市場で決まる物価を一定だと仮定します。だから問題文に物価は硬直的だと書いてあるのですね。小国のモデルを仮定し、マーシャル-ラーナー条件を満たすと仮定しています。
それでは選択肢の検討をして見ましょう。
なお、近隣窮乏化政策は、為替レートを切り下げることによって輸出を増やし、その結果として相手国の総需要を減少させて失業を増大させるような政策のことをいいます。

まずは設問1です。設問1は財政政策を発動した場合ですから自国ではその効果は無効です。
aは外国がどうなるかの記述です。自国で財政出動した場合、自国では輸出減・輸入増となり経常収支は悪化します。それゆえ総需要は減少し、IS曲線の左シフトが起きます。他方、外国では円高ドル安局面ですから、輸出増・輸入減となり経常収支は改善し、総需要が増加します。ゆえに所得の増加が見られることになるので本肢は正しい記述だと判断できます。
bです。近隣窮乏化政策は自国の通貨安が外国の総需要を低下させることです。財政出動によって自国は円高ドル安水準になりますから輸出減・輸入増となり、つまり外国にとっては輸出増・輸入減ですから本肢の記述は不適であることが分かります。
cです。自国が財政出動をした場合、IS曲線が右シフトします。市場利子率は上昇するってことですね。一方、外国は経常収支改善に伴い、総需要が増加しますからIS曲線が右シフトします。これもまた市場利子率は上昇します。つまり、両国とも利子率は上昇するわけですから内外利子率はともに高くなります。ゆえに不適。
dはどうでしょう。自国での財政出動によってIS曲線は右シフトし、市場利子率は上昇します。投資は利子率の減少関数でしたから、投資は減少します。さらに円高ドル安により輸出減・輸入増となることから経常収支は悪化します。ですがそもそもIS曲線が右シフトしGDPは増加しますから、その増加分が相殺されない限り所得は増えます。よって正しい記述です。
eは変な記述です。2国モデルを仮定し、自国の財政出動により外国に影響を与えていますから「外国経済への波及は何ら生じない」とする記述は不適です。
したがって、正解は、イ です。

続けて設問2にいきましょう。
次は金融政策の効果が問われています。金融緩和策を採ると名目貨幣供給量は増加します。ちなみに物価も一定とみなしていますので実質貨幣供給量も増加します。
選択肢を検討しましょう。
aですが、金融緩和策を採ると外国では通貨価値の下落(これを「減価」といいます)は生じません。
自国で金融緩和策を採ると、LM曲線が右シフトし、国際利子率が下落します。すると海外資金は流出しますから円安ドル高になります。外国では増価となりますから本肢の記述は正しくありません。
bです。金融緩和策は自国で減価、外国で増価です。つまり外国の経常収支を悪化させます。それに伴い総需要が減少しますからGDPは減少します。つまり“近隣窮乏化政策”です。よって正しい記述です。
cは金融緩和策でLM曲線が右シフトしますから自国の市場利子率は下落します。一方、外国は経常収支悪化に伴い、総需要が減少しますからIS曲線が左シフトします。ゆえに市場利子率は下落します。つまり、内外利子率を低下させますので正しい記述です。
dです。自国では利子率が減少しますから投資は増えます。「民間投資支出が減少」とする記述は不適です。
eは、自国では「通貨価値が上昇」とあります。円安ドル高基調ですから「減価」です。減価によって輸出は増加しますから経常収支は改善します。よって不適。
以上により、正解は、ウ となります。