自称週末ファーマーの国家試験受験記

自己啓発の延長なのか、自己実現の手段なのか、はたまた意地の張り合いか。生きているうちに“何か”を成し遂げたいから走り続けているような感じがする

経済学・経済政策【平成18年度 第9問】

【平成18年度 第9問】
 下図は、国際間における資本移動の効果を描いたものである。MPKは資本の限界生産物を、rは単位あたりの資本のレンタル料を表している。また、当初、Ⅰ国の資本量はOⅠC、Ⅱ国のそれはOⅡCであり、Ⅰ国の資本のレンタル料はrⅠ、Ⅱ国のそれはrⅡである。この図の説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

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a 単位あたりの資本のレンタル料が異なるために、CDの資本量がⅡ国からⅠ
 国に移動し、その結果、国際間における資本のレンタル料は均等化(r*Ⅰ=
 r*Ⅱ)する。
b 資本移動の結果、Ⅰ国では労働者の所得が三角形AEr*Ⅰに減少し、Ⅱ国で
 は労働者の所得が三角形BEr*Ⅱに増加する。
c 資本移動の結果、世界全体では三角形EFGだけ所得が拡大し、そのうち、三
 角形EGHはⅠ国の所得の純増に、三角形EFHはⅡ国の所得の純増に等しい。
d 資本移動の結果、Ⅰ国では資本の所有者の所得が減少し、反対に、Ⅱ国では
 資本の所有者の所得が増加する。

 

〔解答群〕
ア a と b   イ a と c   ウ b と d   エ b と c

 

 

 

 

 

 

 

要素価格均等化命題という論点です。ヘクシャー=オリーンの第二定理ともいいます。なかなか難しいように見える論点ではあります。
ヘクシャー=オリーンの定理を確認しますか。
あ、オリーンと書きました。ですが、オーリンと書く人もいるようです。どっちでもいいみたいですが、著者はオリーンで覚えてしまったのでオリーンでやります。

この定理の意味はこうです。
「資本豊富国は資本集約財に比較優位を持ち、労働豊富国は労働集約財に比較優位を持つ」という定理です。
なお、ここで、労働のレンタル価格=賃金率、資本(機械設備)のレンタル価格=利子率、とします。
さて、その理由ですがこう考えます。
資本よりも労働の方が相対的に多く存在する労働豊富国は、賃金率が利子率よりも相対的に安いです。
だから、労働を多く必要とする財(労働集約財)の比較生産費が下がりますので比較優位となります。

また、労働よりも資本の方が相対手金多く存在する資本豊富国は、利子率が賃金率よりも相対的に安いです。
だから、資本を多く必要とする財(資本集約財)の比較生産費が下がりますので比較優位となります。
比較優位の財は輸出しますね。
そうすると、労働が豊富な国は資本が豊富な国に労働を輸出し、資本が豊富な国は労働が豊富な国に資本を輸出しますから、相対的な差は縮小しますです。

ただ、レオンチェフさんという人はこんなことを発見しました。
資本豊富国であるアメリカが実際には労働集約財を輸出していることを実証してしまいました。ヘクシャー=オリーンの定理とは逆であることから「レオンチェフの逆説」なんて呼ばれています。
確かにアメリカの労働は少なかったのですが生産性がバツグンによかったというオチがありますが・・・。

次に本問で問われているヘクシャー=オリーンの第二定理の説明をします。
労働豊富国と資本豊富国とに分けましょうか。

<労働豊富国>
・労働力多いから賃金率低い
・労働集約財の比較生産費が安い
比較優位だから労働集約財を輸出
・よって、労働力が減少するので賃金率はアップする

<資本豊富国>
・資本量が多いので利子率が低い
・資本集約財の比較生産費が安い
比較優位だから資本集約財を輸出
・よって、資本が減少し、利子率はアップする

このように貿易により各国の生産要素価格比(賃金率/利子率)は均等化していくことがわかります。これをヘクシャー=オリーンの第二定理(要素価格均等化命題)と呼んでいます。

それでは本問の図を用いて内容を確認します。

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次に資本移動後を考えます。
Ⅰ国は資本豊富国ですからⅡ国へ資本集約財が移動します。点Eで均衡しますからね。
すると、Ⅰ国の低かった利子率は輸出したことにより利子率が上昇します。
つまり、rⅠ→r*Ⅰに上昇するわけです。
Ⅱ国は労働豊富国ですからⅠ国から資本集約財がやってきます。
すると、徐々に利子率が下落し、rⅡ→r*Ⅱになっていきます。

Ⅰ国もⅡ国ももともとの資本量は不変ですから、
Ⅰ国は利子率が上昇したことで、
Ⅱ国は利子率が下落したことで、それぞれの労働者所得、資本所有者の所得に変化が生じてきます。
まずは資本所有者の所得のほうがラクチンですからこっちから見ましょうね。

資本量は不変ですから、
Ⅰ国=OⅠC  Ⅱ国=COⅡ  です。
Ⅰ国は利子率が上昇し、Ⅱ国は利子率が下落していますから、
資本移動後のⅠ国の利子率=r*Ⅰ  Ⅱ国の利子率=r*Ⅱ  なので、
Ⅰ国の資本所有者の所得=OⅠC×r*Ⅰ=②③④⑤⑥⑦
Ⅱ国の資本所有者の所得=COⅡ×r*Ⅱ=⑨
と変化しました。

次に労働者所得です。
労働者所得=資本量×レンタル料 と仮定しました。
Ⅰ国の利子率=r*Ⅰ は上昇しました。資本集約財を輸出したためです。
また、一方で、資本の限界生産力は低下します。MPKⅠとr*Ⅱの交点Eにおける基本量はDだからです(資本集約財を輸出しているのでCからDへ資本限界生産力が減少した)。
ゆえにⅠ国の労働者の所得=① になります。
同じようにⅡ国もみてみますと、
Ⅱ国の利子率はrⅡ→r*Ⅱへ下落。点Eで均衡しましたから(資本集約財をもらっているのでⅡ国の資本の限界生産力は増加)、
Ⅱ国の労働者所得=⑧⑩⑪ になります。

したがって、資本移動後では
Ⅰ国全体の所得 → ②③④⑤⑥⑦+①
Ⅱ国全体の所得 → ⑨+⑧⑩⑪
ですね。

あとは資本移動前と後を比べてみましょう。

<Ⅰ国>
  資本移動前                資本移動後
・労働者所得 ①②④⑤         ・労働者所得 ①
・資本所有者の所得 ③⑥        ・資本所有者の所得 ②③④⑤⑥⑦
・Ⅰ国全体の所得 ①②③④⑤⑥    ・Ⅰ国全体の所得 ①②③④⑤⑥⑦

<Ⅱ国>
  資本移動前               資本移動後
・労働者所得 ⑪           ・労働者所得 ⑧⑩⑪
・資本所有者の所得 ⑨⑩       ・資本所有者の所得 ⑨
・Ⅱ国全体の所得 ⑨⑩⑪       ・Ⅱ国全体の所得 ⑧⑨⑩⑪

資本移動後の変化は、
Ⅰ国 ⑦が増えた
Ⅱ国 ⑧が増えた

となりますね。

つまり、貿易によって比較優位財を輸出することでお互いにメリットが生じるということを説明した理論なんですね。

そこで、やっと選択肢の検討に入ります。

a:資本豊富国はⅠ国です。ですから資本量の移動はⅡ国からⅠ国ではなく、Ⅰ国からⅡ国です。ゆえに不適。
b:労働者所得の変化は、Ⅰ国は①②④⑤→①ですから、△AGrⅠ→△AEr*Ⅰ。Ⅱ国は⑪→⑧⑩⑪ですから、△BFrⅡ→△BEr*Ⅱ。ゆえにⅠ国は減少し、Ⅱ国は増加しているので正しい記述だといえます。
c:資本移動前は、Ⅰ国全体の所得は①②③④⑤⑥であり、Ⅱ国は⑨⑩⑪です。それが資本移動後にはⅠ国は⑦(=△EGH)が増え、Ⅱ国は⑧(=△EFH)が増えていますから合計で⑦⑧、すなわち△EFG分が増加したことになります。ゆえに本肢は正しい記述です。
d:資本移動後の資本所有者の所得は、Ⅰ国では③⑥→②③④⑤⑥⑦ですから増加しています。Ⅱ国では⑨⑩→⑨ですから減少しています。ゆえに本肢の記述は反対になっていますから不適ですね。
以上により、正解は、エ である。

本問では、ヘクシャー=オリーン定理の第二命題ということで解説しましたが、比較優位財を輸出することで要素価格が均等化し、2国小国モデルにおいては2国全体の所得が増加するということを説明した理論でした。

資本豊富国は資本集約財優位ですから資本集約財を輸出するために資本集約財の生産量が増加します。反対に労働集約財の生産量は減少します。これを『リプチンスキーの定理』といいます。

また、資本集約財を輸出するために資本集約財の生産量が増加しますから資本集約財を生産するための生産要素の価格は上昇しますから資本豊富国の利子率も上昇します。。反対に労働集約財を生産量は減少しますから労働集約財を生産するために必要な生産要素の価格は下落し、賃金率も下落します。これを『ストルパー=サミュエルソンの定理』といいます。

この2つの定理から要素価格均等化命題という第二定理が導かれたというわけです。

少し前の日本と中国の関係を言い表すのに最も適した理論かもしれません。
労働豊富国である中国が労働集約財を輸出することで資本のレンタル料すなわち利子率が下落し、賃金率が上昇しました。この点については、現状の経済情勢と合致しているかもしれませんね。